第2話(神隠し事変①)

 その日の夜、講義や課題などの用事を終え、寮に帰ってきた私は新聞を片手にベッドに横たわっていた。

「都市伝説好きなルルなら食いつくと思ったのにな」

 おもむろに独り言をつぶやく。


 ――昼休み、食堂でこんな会話があった。

「ねぇルル、朝の件なんだけど」

「失踪事件のことか。あんなの警察に任せておけばいいじゃないか」


 ……確かに警察に任せるのが、正しい判断というか真っ当な判断なのかもしれないけれど、私の中でどこか腑に落ちなかった。

「神隠し、あると思うんだけどなぁ」

 あれこれ考えているうちに、私は新聞に包まれながら寝てしまっていた……。


 ※


「……たまえ……おい、めぐみ……起きたまえ!」

「はっ!」

 目が覚めた。誰かに起こされた……?横を見ると傍らにはルルカが涙を流してそこにいた。

 知らない天井、いや青空だ。

「そんな泣いてどうしたのルル。ここはどこ? てかいつの間に着替えたの私」

 パジャマを着ていたはずだったが、私服になっている。また、そばにはいつもかぶっている中折れハットも置いてある。

 ――色々な疑問が頭の中で混雑しているが、ひとまず泣いているルルカの頭をなでる。

「な、泣いてなどいない。ただ君がいくら声をかけても目を覚まさないからだね……」

「心配してくれたんだね。ありがとう、ルル」

 ルルカは頬を赤らめて、大きく膨らませた。

「それよりどういう状況? 寝ている私を着替えさせて、ルルがここまで運んできたの?」

「そんなわけないだろう……目が覚めたらここで、アミリナスの中央広場で私と爆睡していた君がいたのだよ」

「へー不思議なこともあるもんだ。とりあえず、大学に戻りましょ」

 私が中折れハットをかぶり、いざ大学へ向かおうとすると、ルルカが私の服の裾を掴んだ。

「……いないんだ」

「いないってなにが?」

「このアミリナスには、人が、人という人がいないんだ」

「そんな、こんな晴天よ。市場の方に行けば人のひとりくらいいるわよ」

 私が言うと、ルルカは深刻そうな顔で、

「君の言う通りこの晴天、市場でなくとも誰かしらここを通ると思っていた。しかし、ここを通る者は人間も獣人もいなかった」

 と、言った。

「なるほど……それじゃあ調査といきましょうよ」

「ちょ、調査?」

「これはきっと神隠しよ。アミリナスの住民が神隠しにあったんだわ。早速市場から調査するわよ、ルル」

「ちょ、ちょっと待ちたまえ」

 かくして、私とルルカの神隠し調査が始まったのであった。

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