3 知り合い

「何ぼーっとしてんねん。明日、誕生日やろ? 俺とダチでパーティの準備しにきたんや」


だが、『その意味と唇の動きが明らかに違う』のである。つまり、この俺の友達という男性は、英語をしゃべっているのに、俺はそれを日本語で理解しているということになる。俺はトイックも英検もろくに取れていないやつだったが、失敗して失うものなどない。なにかを、とりあえず日本語で喋ることにした。


「ああ、ありがとうデンゼル。録音は完璧だよ」


(俺、この人を知ってる…のか…)


デンゼルと呼んだ男性は眉を釣り上げて笑みを浮かべ、片手を空高く掲げる。これを受け止めるのだと理解した俺は、片手を差し出すと、デンゼルは手を叩いた。その後、拳と拳を力を込めて突き合わせる。不思議な感覚だ。『俺の日本語が通じている』。そして、『彼は俺を知っている』。


だが問題は、録音したものをプロデューサーが聞いた時に起こった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る