2 愛車が勝手にカスタムされて…!?
俺は急いでトイレを探し、…もちろん取っ手すら米国風のそれだったので、実際のトイレを探すのに苦労した。まず、物置である。レコードが図書館の書庫のように、ケースに入れられて並んでいた。部屋の一角には複雑なカラーリングのソファがあり、リスニングルームであろうことは見て取れた。次の部屋はパステルカラーのドアであり、中は映写室と思しき室内であった。そして、三部屋目にしてようやくトイレと思しき部屋にたどり着く。独特の取っ手をひねると、古びた便器にこれまた古びた鏡があるといったごくごく小さなトイレが姿を表す。俺は鏡を覗き込んだ。
うむ、確かに俺だ。
これは新手のいやがらせか、壮大なドッキリだろう。というのも俺は誕生日を明日に控えていたからである。
「誰かー、いませんかー」
スタジオの入口を開け、大声で声を掛けるが俺は絶句した。
前につけていた愛車が、シボレー・1958年式 "インパラ" のローライダーに変化している。ベタベタに下げられた車高に、光り輝くワイヤーホイール。純白が映えるホワイトウォールタイヤ。いかにもギャングスタといった感じのミューラル塗装。しかも、リアにスペアタイヤを載せた、いわゆるコンチネンタルキット版だ。金属っぽさすら感じさせられるクローム部分は、完璧なまでに磨き上げられている。
俺が今まで乗っていた日本車は、メーカーはダイハソのミーラ。ルックスをアンティーク調にカスタムしていただいた、世界に2つとない愛車だった。その車の代わりか転生したかどうかした何かが今、眼の前に鎮座されていらっしゃるのだ。
というのも俺はヒップホップ、特にウェッサイと呼ばれる西海岸カルチャーが大好きで、プラモデルやミニカー、ラジコンから音楽・ファッションにいたるまで、ローライダーづくしだったのだ。
感傷に浸っている場合ではないと想いつつも立ち尽くしていると後で車が止まる音がし、声が聞こえてきた。
「マーフィ、調子どないや? レコーディング、うまいこといった?」
そこには20代のアフリカン・アメリカンとみえる好青年が立っていた。
「え?」
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