5 いざ、出発

「気でも狂ったか? 俺はマイケル・ショーン、お前はジョー・タキザワだろ。全米を震撼させたジャパニーズアメリカンラッパーとして一躍有名になった──」


俺はそれからしばらくの間、自慢話…いや、「自分」話を聞かされ、困惑するしかなかった。どうやらこのギャングメンバーらしき人物は、俺をタキザワなる人物だと思い込んでしまっているらしい。しかも、俺のマネージャーを務めているという。


「時間がない。そろそろ出発だぞ」


「え、ええっ!?」


「俺のキャデに乗るか、それともあんたのインパラで付いてくるか?」


「えーっ…どうしよう…じゃ、俺も運転していきます」


「しっかり付いてこいよ、飛ばすぜ? それと、ジュース要るか?」


はて、と思案していると、


「俺のおかんの農園でとれたリンゴで造ったやつ。お前も好きだったろ?」


「え、あぁ、まぁ……」


左ハンドル。ありがたいことに、オートマだ。

それらを難なく操作できている自分に驚いたが、体が勝手に動いているのだ。アメ車は相当故障しやすいと評判だが、これなら仮にエンストなり何なりしても自分で修理できるかもしれない、と妙な自信が溢れ、急な展開とはいえ一時の安堵の刻を得ることができた。


☆ ☆ ☆

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