第6話 売れない作家、人気配信者と再会する

「美波のやつどこに居る? おっいたいた」



 どうやら無事のようで他の冒険者に救援を要請していた。



「はい、ひとり叔父が。叔父って言ってもおじさんではなく……若干年の割に老けているかもですがデスクワークで血色悪いだけで――」


「落ち着いてくだされ。混乱しておりますぞお嬢さん」



 困惑する冒険者の人、それを遠目からちょっと複雑な表情で見やるしかない。



「と、とりあえずどんな男性でしょう?」

「ああ、あんな感じに疲れた顔で……あ」

「まったくヒドいな老成してると言ってくれよ」



 俺の顔を見た美波は安堵の顔で飛び込んできた。



「良かったカイ兄! 生きていた!」

「まあ、何とか逃げてきたよ。これに懲りたら無茶するなよ美波。おっと」



 忘れていた、コメント欄はどうなっているか……俺はタブレットを起動し直す。



<ちょっとマジでカイ兄死んだ!?>

<お、元に戻ったがw>

<良かった、ハラハラしたぜ、コレ演出?>

<いや、涙目JCイイネ!>



 とりあえず無事を喜んでくれているようだ……若干危ないやつが一名いるが。



「まぁ良かった」



 これに懲りて美波も暴走しなくなるだろう。ま、荒療治と思えば。


 俺は一息つくと美波が助けを求めた冒険者さんにお礼を言う。



「あの、ご心配おかけしました。うちの姪っ子が」

「…………」



 あれ? この人この前に「危ないですぞ」って声かけてくれたらいい人じゃないか?


 足元までしっかり守ったベテランの風貌。武器の使い込みを見ても中級者以上であるだろう。少なくとも端っこの方で決闘のまねごとしている不良連中よりかはまともだろう。黒縁メガネで真面目そうな顔でもあるし。


 彼は俺を一点に見つめ……というか睨んでいた。



「あの?」



 何だ何だと困惑する俺に、いい人は剣を抜いて構えた。


 お、おい? 穏やかじゃないぞこの状況。


 彼は剣を構えてしゃべり出す……めっちゃ重い口調で。



「拙者は君を斬らねばならない」

「なんで?」



 思わず素でツッコんでしまう。何がどうしたものかと困惑していると、彼は俺が装備してるタワーシールドを指さした。



「理由はその盾ですぞ」

「え? 盾がお嫌いとか盾に親を殺されたとかなんとかそんな感じですか?」



 美波が率直な疑問を口にする、ちょっと刺激しないで。


 いい人は首を横に振った。



「当たらずとも遠からずでありますな……貴殿はこの前「ハルル」を助けた男ですよね」

「ハル? 誰ですか?」

「惚けないで下さい! ハルルを知らないとかそんなウソを!」



 ダン! と地面を踏みつけ、剣を向けるいい人。



「松尾正と申します。噂の立て男殿、拙者は貴殿を超えなければならない」

「噂の盾男ってどういう……」



 その時だ、ザワザワと周囲が騒がしくなる。


 俺と松尾さんの言い争いに反応している……という感じではなさそうだ。


 どこか色めき立ったような雰囲気。


 その理由はすぐ分かった。



「ああーっ! あの時の人! ようやく見つけた!」



 やけ明るい声で振り返ると、あの日老トレントから助けた一人の少女がいた。


 彼女はすぐさま俺の手を握ってくる。



「あの時にありがとうございました。本当に助かりました。ずっと探していたんですが、なかなか見当たらなくて。なんで今日いるんですか? 普段は――」

(おい、何だ、何だ、何だ?)



 お礼を言われるのはともかく、周囲の温度が妙に上がってきているんですけど!?


 特に目の前の松尾さんなんて顔を赤……ていうか怒気をはらんでるじゃんか。



(瞬間湯沸かし器を彷彿させるその顔色。一体全体なんなんだ松尾さん)



 そんな疑問を抱いていると――



「あぁぁぁぁぁ!」



 今度は美波がやたら甲高い声で黄色い声を上げていた。いやほぼ奇声だけど。



「ハ、ハ、ハ、ハ、ハ、ハ……」

「笑ってんのかミナ――」

「ハルルさんですよね!」



 俺が手を握られているところに手を重ねてくる姪っ子。まるで円陣を組んでいるような

「エイエイオー」一歩手前な状況なんだが。



「っと、そんなことを考えている状況じゃない……え~っと」



 一体何が起きているんだと問おうとすると。美波が矢継ぎ早にハルルさんに質問を投げかけていた。



「私美波って言います! ハルルさんに憧れて配信者になりました! ゼロから這い上がった奇跡の配信者! ダンジョンのコケ食べてみたとか! それが今やトップ配信者! 憧れです。ガチで!」

「えちょっと……」



 ハルルさんはさっきまでの俺と同じ顔をしていた。俺の気持ちをわかってくれたようで何よりです。



「うむ、そうですぞ、そうですぞ。わかります、えぇ」



 なぜか美波の横で松尾さんがわかりみ深く唸っている……この人何なんだ?


 とりあえず美波を引き離しハルルさんに尋ねてみた。



「とりあえず落ち着け美波……えっとこの前の老トレントの人であっていますか?」

「はい! ハルルと申します! その節はどうも!」

「そして拙者が松尾正こと「ジャスティス松尾」ですぞ! ジャスティス松尾のジャスティスチャンネルでダンジョン内のルール違反撲滅や危険行為の取り締まりを自主的にやっている自治系配信者でっす! 何度かコラボの打診をしたと思いますが……」

「あはい、どうも」



 横からの松尾さんにハルルさんはタジタジだ。自治系のくせに会話に無理やり割り込んでくるのは自己矛盾ではないのかと小一時間問い詰めたい。


 何だか面倒な人間の香りがプンプンする……こじれそうだと察した俺は「じゃこの辺で」とさりげなく離脱を試みた。


 だが……



「「「待って!」」」



 なぜか止められてしまう。しかも三人から……っていうか松尾さん馴染みすぎじゃないですか。


 まずハルルさんがズィっと肉薄してきた。



「あの! この前のお礼がまだでして! ていうか配信者だったんですね! じゃあコラボしません? コラボ!」

「いえ、別に配信者じゃないんですけれども……」



 そこに美波が会話に参加してきた。



「コラボの打診!? 受けるべきだよカイ兄! ハルルの申し出だよ! ハルルって今までコラボとか受けたことないから! すごい名誉のことだよ!」



 なんとなくこの「ハルル」と言う人間がどんな人なのか……美波が相当なファンというのが見えてきた俺は彼女に尋ねる。



「なぁ美波、このハルルって人何者なんだ?」



 美波は珍しいものを見るかのように呆れ目頭を抑えて出した。何なんだそのリアクションは、あとついでに松尾さんも目頭を押さえているし。



「ハルルさんは今や誰もが知っているクールビューティな新進気鋭の配信者ですぞ」

「そうそう! 配信界に颯爽と現れ成り上がった、みんなの憧れなんだよね」

「うむうむ、ですぞですぞ」

(なんで意気投合できるんだよお前ら……)



 初対面でもすぐに打ち解けさせられる、これも人気配信者ハルルのなせる業だというのか?


 そのハルルさんは俺と美波を交互に見やりながらこんな質問を投げかけてきた。



「ところで、お名前を伺っても……あと、この女の子とはどういう関係なのでしょうか?」



 ゾク――


 若干冷たい視線が美波に向けられる……


 だが、美波はこれを怖がらず、むしろ「目が合った」と大はしゃぎだ。



「ねぇ、目合ったよカイ兄!」

「えーっと、俺はいつく……カイ兄、そしてこいつは俺の姪っ子でミナミンって言います」



 何て言うか配信者としての名前を名乗るのって若干恥ずかしいな。昔は本名がスタンダードだったけど。



「カイ兄さんですか、ほうほう姪っ子さんと。それは安心しました」

「安心? まぁ配信者に成りたいってせがまれて今日からデビューした新米冒険者です。んで俺はアシスタントの手伝いに駆り出されただけでして」



 これに対し、ハルルさんは目を丸くして驚いていた。



「あなたがアシスタント!? あんなに強いのに!?」



 その流れでハルルさんは松尾さんの方を向いた。



「それと……この方とはどんな関係で」

「知らない人です」キッパリ



 俺は即答した。いや、本当に面識ないんだけれども。


 が、松尾さんはグイグイ距離感を詰めてくる。



「コラコラ、そんな冷たいこと言わないでくだされ、カイ兄」

「カイ兄呼び止めてください。ていうか斬らねばならないって何ですか?」

「おっとそうでしたな! カイ兄! いざ尋常に勝負ですぞ!」



 また、臨戦態勢を取る松尾さん……本当になんなんだ、この人。


 問いただそうとするが、その必要なく彼は自分語りを始める。



「ハルルさんは拙者の人生と言っても過言ではありませぬ。仕事で失敗し、生きる意味を見失っていた拙者ですが、彼女の頑張りを見る内に希望を取り戻しました! そしていつか彼女とのコラボする日を夢見て! 自治系ダンジョン配信者として研鑽を積んできましたぞ!」



 恍惚の表情で語る松尾さんだが急にこっちを睨み始める、もう情緒が不安定すぎません?



「しかし! しかし! 何度も断られ、彼女の初コラボは拙者だと思ってた矢先に貴殿が! くぅぅぅ!」



 今度は泣き出す始末、早めに病院に送りたいところだ。


 ハルルさんが苦笑いしながら断った経緯を端的に説明してくれる。



「なんか怖くてお断りしてたんです」



 実にわかりやすかった。こんな情緒不安定っぷりを見せつけられちゃねぇ。



「わかります、こんな調子じゃ……」



 なんか変なスイッチ入りっぱなしなんだよね、この人。


 こっちの半眼などに意に介さず、松尾さんは熱のこもった演説を続けていた。



「急にハルルさんがどこぞの馬の方に助けられて! ソイツとコラボすると言い出し! ず~っとハルルさん初めてのコラボ相手を志願していたこのジャスティスを差し置いて! ジャスティスを差し置いて!」



 美波は指をパチンと鳴らす。



「ああ、つまり逆恨みかぁ」

「違います! 純愛ですぞ」



 深掘りしないで美波……あと「純愛」言い切るの怖いわこの人。


 整理しよう、つまり松尾さんはハルルさんにコラボを打診するも断れ続け、そして逆恨みで俺に喧嘩を売ってきたわけか……彼女のコラボ受けるなんて言ってないのにも関わらず。



(面倒くさいなぁ……もぉ)



 だがこっちの考えなどお構いなし、松尾さんは張り切っている。



「コラボをかけて! この自治系ダンジョン配信者「ジャスティス松尾」と勝負ですぞ!」

※次回は12/9 18:00に更新予定です




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 皆様に少しでも楽しんでいただけるよう頑張りますのでよろしくお願いいたします。 




 また、他の投稿作品も読んでいただけると幸いです。






 この作品の他にも多数エッセイや






・追放されし老学園長の若返り再教育譚 ~元学園長ですが一生徒として自分が創立した魔法学園に入学します~




・売れない作家の俺がダンジョンで顔も知らない女編集長を助けた結果




・「俺ごとやれ!」魔王と共に封印された騎士ですが、1000年経つ頃にはすっかり仲良くなりまして今では最高の相棒です




 という作品も投稿しております。




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