第5話 売れない作家、キメラを圧倒する②


「お久しぶりです! ミナミンです! 今日は前から宣言していたダンジョン配信に挑戦してみたいと思います! 有言実行、犯罪以外は何でもやるよ! ……ちなみにアシスタントは叔父のカイ兄です。よろしく」

「よ、よろしく」

「ん~、こんな平日に付き合ってくれるなんてニート様々だね」

「ニートじゃねぇよ」




<ニート草>

<ちょっと親近感沸くわwww>

<親戚か、なら敵じゃない、よろしくカイ兄w>




 このやり取りにコメント欄に草が生える生える……まぁウケているからいいか。売れない作家はある意味ニートと変わらないから腹も立たん。売れたい。


 そう、実は美波、前から配信者として小銭を稼いでいたようだ。登録者もそこそこ、こんな時間なのにコメントしてくれる視聴者もいるし……JCの行動力恐るべしだな。



(まさか今日から配信するとか、ほんと無敵の女子中学生だな……しかしアシスタントねぇ)



 俺の時と違い戦闘中のカメラはドローンで全部済む。最近のアシスタントのやることはタブレットによるドローンの微調整やコメント読み程度。



(便利な時代が来たんだ)



 このアシスタント作業も慣れれば一人で出来てしまう、今の時代はアシスタント無しも珍しくないとのこと。


 美波は「慣れるまで、ゆくゆくは一人でやる」と言って安心した。ダンジョンに変な未練が沸くのはゴメンだからな。



「さぁ初ダンジョンだ!」



 意気揚々と美波は進む。



「最初はこの雰囲気に慣れておけ、召喚装備とか普段身につけない物に体が馴染むまで準備運動を……」



 だが美波は――



「カイ兄、さっそくモンスター倒そう!」



 バリバリの戦闘民族だった。



「あのな、デビューした人間がいきなり……」

「でも武器防具買って試さないのはダンジョンに対する礼儀がなっていないよ」

「なんだ礼儀って、金だした俺に対しての礼儀はどこいった」




<ダンジョンに礼儀www>

<カイ兄カワイソスw>

<親戚同士の漫才w>




 コメント欄も爆笑で溢れて視聴者も結構増えだしている……どうやら俺とのやり取りがウケているらしい。


「ふふん」ニマーッ


 ニンマリ笑う美波……コイツこれが狙いか。なかなか配信巧者だな。


 増えてきたコメントに目を通す、良いコメント拾って話を広げないとなぁ。


 そんな中……



<なんか日高円佳とカメアシの会話みたいだ>



 嬉しいやら悲しいやらのコメントを目にして俺はつい黙りこんでしまった。



「……」

「何かに面白いコメントあった?」

「あぁ、ミナミン鼻毛でているってさ」

「えぇ!? それホント!?」

「ウソだ」



 ポカポカ殴りかかってくる美波……やれやれ、とりあえず姪っ子の気の済むまでお付き合いしよう。


 少し先に進みセーフティーゾーンを抜ける俺たち。


 ここからモンスターが現われる戦闘区域に突入する……とはいえ浅い階層の入り口も入り口。


 さほど危険では無いモンスターがヌルッと沸いては冒険者が準備運動がてら倒したりしている。



「こっちから手を出さないと襲ってこないからまだ安心だ、それに視界も広く万が一ピンチになっても周りがフォローしてくれる」

「ウッス」

「ただ、時間帯によってはガラの悪い連中がいたりするから気をつけろ。19時以降はオススメしない……お、モンスターが沸いたぞ、あれ狙って見ろ」



 俺の指さす方には岩の隙間からチョロリとダンジョンスネークが現れる。



「うん、毒の無いタイプだ、噛みつきにだけ注意しろ」

「お、オッケー!」



 こんな感じで俺は美波に簡単なモンスターを相手にさせるように努める。


 運動神経抜群の美波は俺が勧めたメイスを片手に上手に距離を取ってダンジョンスネークを倒していく。



「おっし、ノーダメージで倒せた! 初討伐成功!」



<ミナミンおめ!>

<JCの初体験ハァハァ>

<↑通報しました>



 盛り上がるコメント欄……若干変な方向に盛り上がりすぎているコメントもあるが。



(これなら剣を装備させても大丈夫だったか)



 傍目から見ても筋が良い、相手との危険な距離を肌で感じて上手く立ち回れているのは天性のものかも知れないな。


 そんな彼女はスネークじゃ物足りないのか別のモンスターを倒したがる。



「ねーカイ兄、スライムに手を出して良い?」

「別に良いぞ、服の隙間から入ってくるし飛び散ったらベタつくし、後で風呂で大変だけどな」

「うぐ……やめとく」



 このアドバイスにコメ欄は大荒れだ。



<裏切ったなカイ兄!>

<JCのローションまみれ姿、堪能チャンスだったのに!>

<初心者のお約束だろ!>

<再生数稼ぎたくないのか! 俺たちの邪魔をしないでくれ!>



「すまん、スライム塗れの映像を世界に配信したとなったら俺が姉貴に殺される」



 そして美波はスライムはさけ、ダンジョンスネークや洞窟コウモリなど比較的戦いやすいモンスターを相手に戦い続ける。


 回数を重ねるにつれ腰の入った良い攻撃を繰り出せるようになっていた。ウチの姪っ子スジ良すぎだろ。



「よしよし、っと」



 そんでもって俺はコメントをちょくちょく拾いながらついでにドロップアイテムも拾っていく。


 十体ほど倒したところで額の汗を拭いながら美波が尋ねてきた。



「ねぇカイ兄、結構倒せたけどアイテムってどのくらいのお金になる?」

「そうだな、取引所じゃ一個14円から20円くらいだぞ」



 思ったより少ない金額と思ったのか美波は眉根を寄せる。



「マジ? 割りに合わない気がするけど」

「これでも良心的な買い取り金額だぞ、儲かるモンスターなんて浅い階層にはめったに出ない……軽く運動してジュース一本ぐらいになると考えればいいさ。ダイエット目的の人は十体目安に倒してスポドリと交換して帰るのが一時期流行っていたくらいだ」

「へぇ」



 この俺の話にこんなコメントが流れてくる。



<この配信、初心者講座としては見たら良配信じゃない?>

<JCでもできるダンジョン講座って今まで無かったよな>

<JC見ながらダンジョンの知識を補充、JCの知識も補充したい!>

<昔だけど新聞の広告欄に「水着美女のゴルフ姿を見るだけで上達」なんてDVD売っていたな>



(約一名、完全におっさんがいるな……女子中学生ウォッチャーに褒められても嬉しくないっての)



 とまぁ再生数もコメント数も上々。



「ふっふっふ」



 不穏な笑み、嫌な予感しかしない。


 俺の直感は当たる、再生数に気を大きくした美波は無謀な提案をしだした。



「よっしコツをつかんだもっと遠くに行ってみよう」



 ほら、すぐ調子に乗るんだコイツ。



「おいみな……ってミナミン!」




 忠告して止めようとしたが「女子中学生型核弾頭」の異名を持つ美波は発言と同時にピャーっと奥の方に駆け出してしまう。



「あいつドッグランの犬か何かか……ってオイ! そっちは!」



 駆け出した美波だが野生の勘なのかなんなのか、俺が一番行って欲しくない方……中階層への最短ルート目掛けてまっしぐら。



(この前、俺が通った危険なルートじゃねぇか!)



 オイオイやめてくれ! と、追いかけ俺はすぐさま姪っ子の首根っこを捕まえる。



「ふにゃ!」



 抗議する美波を半眼を向けながら俺は説教を始めた。



「そっちは中層まっしぐらの危険ルートだぜ。強めのモンスターであふれ返るし、狭いから逃げ道確保も大変だっての」



 狭い通路の俺の叱責する声が響いく。



「え~でも、動画的に盛り上がりに欠けるじゃん」

「スネイク倒したばっかの初心者が通っている道じゃねえ! 盛り上がりに欠けてヤバイモンスターに出くわして手足欠けたらえらいこっちゃだぞ! たまに中層の大型モンスターが迷い込んでくる場合もあるってのに……」

「えっと、ねぇねぇ」



 俺の本気の説教、にもかかわらず美波はぼへーっとした表情……なんなんだその顔は。



「人の話を聞いてるのか」

「聞いてるけどさ、その、中層の大型モンスターって、あんな感じ?」



 指さす美波……そこには何と、まさに今話題に上がっていた大型モンスター「キメラ」がそこにいた。


 キメラ――大型モンスターの代表格で獅子の顔に山羊の体、蛇の尾といった様々な動物がごちゃ混ぜになった体躯の怪物だ。円佳曰く、獅子の顔から狙うべきか蛇の尾から狙う方が効率が良いか未だに議論されているとのこと。



「噂をすれば陰だな」



 たまに浅い方に来ることがあるって聞いちゃいたけど、このタイミングで現れるなんて……ある意味「持っている」な美波。


 初心者が大型に遭遇、デビュー配信としてはこれ以上無い盛り上がり要素であろう。


 グルル……


 キメラは恐ろしい相貌でこちらを睨み涎なんかを垂らしている。



「なんか狙われてる気がするんだけど」

「なんかじゃない。完全に狙われてる」

「逃げた方がいい?」

「逃げた方がいい」



 グギャァァァ!



「アーッ! アーッ!」



 キメラが吠えるや否や一目散に逃げる美波。


 勝ち気で無鉄砲な性格だが危機的状況と一度感じたら躊躇うことなく逃走できるのも彼女の強みだ。散々調子乗っていても姉貴がキレそうになったらすぐさま平身低頭で謝れるからな、生存能力高いんだコイツ。


 美波は後ろを振り返ることなく一目散にその場から逃げだした。



「やれやれ、これに懲りたら無茶なことを言ったりはしないだろう。さて……」



 お灸を据えてくれたキメラに感謝はしているが野放しにするわけにはいかないな。


 このままキメラを放置したら浅い層まで上ってきて何人も犠牲になるだろう。



(この場で倒すしかない……まず美波に撮影用ドローンを追わせてっと)



 周辺に他の人間やドローンカメラが飛んでないことを確認。


 タブレットのコメント欄が大変なことになっているが後回しだ。



「こい、タワーシールド」



 俺は愛用の盾を装備しキメラに相対する。


 アガ?


 盾だけで武器をもっていない俺の装備に獅子の頭と蛇のが不思議そうにこちらを見て。



「なんで、こいつは武器を持ってないんだろう? なんて思っているだろうな」



 キメラは賢いモンスター、かなりこっちを警戒している……が、ゆっくり時間をかけるつもりはないぜ。



「さぁ、一勝負だ!」



 俺は盾を構えると、そのまま突進する。


 グァァァァ!


 ――無謀にも突っ込んで来やがった。


 とでも言っているかのようにキメラは嘲るように吠え、大口を開けて待ち構える。


 そのまま俺をかみ砕かんとする勢いだが……



「悪いな、お前程度のモンスター、最下層じゃあカートン単位で退けてきたんだよ」



 あの時は片手でカメラを持ちながらキメラの群れを退けてきたんだ、一対一で対処するなんてイージーオペレーション……朝飯前ってやつだ。



「オラ!」



 ゴッス!


 俺は獅子の顔面間近で加速し、顎が閉じる前にそのアゴ下を打ち砕く。


 オギャ!?


 いきなりアゴを穿たれ情けない声を上げるキメラ。



「まだまだ! シールドチャージだ!」



 俺はそのまま突進を続け、大型モンスターを壁に打ち上げる。


 シールドチャージ――相手を吹き飛ばしたり防御しながら相手の懐に潜るためのスキルの一種だ。


 だが盾を極めし俺が使うと、1tトラックが突っ込むような殺人技へと変貌する。


 ズドン! ドッドッド!


 壁にぶちのめされてもなお、俺は突進を止めずにキメラ巨体を壁に押し続ける。


 オゴァ! オゴァ! オゴァ! オッゴァァァ……


 やがて限界を迎え、吐血し横たわるキメラ。



「ふぅ、こんなもんか……ちょっと時間食ったかな」



 そして俺は誰にも見られないことを確認しつつ、イソイソと元の階層へと戻る。


※次回は12/9 18:00に公開予定です


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 皆様に少しでも楽しんでいただけるよう頑張りますのでよろしくお願いいたします。 


 また、他の投稿作品も読んでいただけると幸いです。



 この作品の他にも多数エッセイや



・追放されし老学園長の若返り再教育譚 ~元学園長ですが一生徒として自分が創立した魔法学園に入学します~


・売れない作家の俺がダンジョンで顔も知らない女編集長を助けた結果


・「俺ごとやれ!」魔王と共に封印された騎士ですが、1000年経つ頃にはすっかり仲良くなりまして今では最高の相棒です


 という作品も投稿しております。


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