第3話 売れない作家、姪に配信アシスタントを頼まれる
「久遠の実ですか? あぁ、急がなくても大丈夫ですよ」
「はぁ!?」
後日の喫茶店にて、さっそく円佳に連絡入れたらこの返事。
思わず大きな声をあげてしまった俺はに周囲の視線が突き刺さって少々痛い。
「まぁ落ち着いて下さい」
「おま、ただ働きかよ!」
その反応を楽しんでいるように円佳はクツクツと笑っていた。
「ふふふ、半分冗談ですよ」
「半分?」
含みのある言い回しが完全に悪の黒幕な口調だぜ……
円佳はゆっくりとしゃべり出す。
「今ちょうど納品がありまして。でもまぁ、研究材料はいくつあっても助かりますので、いただきます」
納品ねぇ……そういや助けた配信者の女の子も久遠の実を探していたのかな? まぁいいや。
「お前の所の会社に郵送すればいいのか」
「私に直接会いに来てくれても構いませんよ」
「よせよ、そのまま変な書類にサインでもさせられそうだ」
円佳は肯定も否定もせず「ふふふ」と笑っている。こういう腹の底が見えないところが怖いんだよな、世間様じゃ「ミステリアス」って良いように取るんだよなぁ。
「ところで本業の方はいかがですか?」
こいつ、本当に人の嫌なこと聞いてくるよな。
一拍おいて、俺は動揺を悟られないよう落ち着いた声で応えた。
「企画書、読んでももらえてない……おそらくボツだよ」
「それはそれは残念」
「ちっとも残念そうに思えないんですが円佳さん」
こちらのことなどお構いなし、彼女は一方的に勧誘してくる。
「ではどうでしょう? バイトして引き続き私の仕事を――」
その時だ、俺の視界に厄介な奴が入ってきた。
「すまん切るぞ」
「あちょ――」
通話を切り上げ、これから来る「モンスター」の襲来に身構える。
喫茶店の入り口で俺の姿を発見したソイツは満面の笑みで入店、俺の席の真っ正面に堂々と座る。
「カイ兄! アイスコーヒー飲んでいい?」
ショートボブに中学校の制服を着込んだ活発な少女。
「美波……またかよ」
堂島美波……俺の姪っ子だ。
姉貴の再婚相手の連れ子で明朗快活、流行り物が大好きな女の子でクラスの中心的存在らしい。
コミュ強……というより遠慮ない性格で、学校の近くに借りている俺の部屋を別荘扱いしている節があり、よく漫画などを読みに来る。
こんな感じで喫茶店で作業してる時に乗り込んではアイスコーヒーなど勝手に頼む……まぁ最近の学生事情を聞けたりするので作家としては結構助かってるんだけどさ。
だが今日の彼女、ただコーヒーを飲みに来たという感じではなく妙にソワソワしていた。
「どうした急に? なんだ彼氏でもできたのか?」
彼女は勝手に頼んだアイスコーヒーをゴクゴク飲み始めると、頬を上気させ宣言する。
「カイ兄! 私、ダンジョン配信者になる!」
いきなりすぎて俺には何がなんだか分からず、イスからずり落ちそうになった。
「はぁ?」
「今ね、クラスの女の子が配信デビューしたんだって! そしたらいきなり有名配信者の「ハルル」と遭遇したってすごくない!?」
ハルル……? あぁ確か美波が最近ハマっている配信者だっけか。
「つまりを好きな配信者を生で観たいというミーハーが極まって、お前もデビューしたいということか」
「言い方っ! まあ八割合っているけど」
「八割? なんだ残りの二割は」
「真面目にさぁ、私やりたいことがあまりなくて、何か真剣に打ち込みたいって思っていたのよね」
そうだった、美波は将来の夢が「有名人」「お金持ち」なんて堂々と豪語する人間。
三者面談の時に堂々とそれを言って先生に苦笑いされたと姉貴が言ってたな。
(ただ口だけじゃなく行動力があるんだよな……そういった人間の方が成功するもんだ。あの円佳のようにさ)
ミニ円佳を見ているようだと微笑んでいると、美波はポンと手を合わせ俺にお願いをしてきた。
「んで! 可愛い姪っ子のため、撮影の機材とか色々買って欲しいの!」
「は? 姉貴かお義兄さんに頼めよ」
「だって絶対「危ない」って怒られるし、カイ兄優しいから……ね、お願い、体で払うから。具体的にはダンジョンで拾った物あげるから」
「言い方ぁ!」
公衆の面前で「体で」とかいうなよ中学生が、今コンプラ大変なんだからな。
しかし放置する気にはなれなかった。
(姉貴夫婦が心配するのはよく分かる、鉄砲玉だもんなコイツ)
美波は何しでかすか読めない。
姉貴達の「危ない」も美波だけじゃなくその周囲の人に迷惑がかかるかもって意味もありそうなんだよな……
俺は嘆息一つし、こう答えた。
「断っても勝手にダンジョンに潜るだろお前、怪我でもしたら「何でもっと本気で止めなかった」って姉貴とお義兄さんに殺されてしまう……まだ死にたくないんだよ」
「さすがカイ兄! ウチの家族のことよく知っているネッ」
ぶっちゃけ最下層のモンスターより恐ろしいからな、あの元ヤン夫婦。
俺は美波をマジマジ見やる。
なまじっか運動神経も良く、意外にダンジョン冒険者として良い線行くかも知れない。
(だからこそ、危険なんだよな)
解析が進んだとはいえ、ダンジョンは危険だ。
浅い層ならまだ平気でも、中層、深層となると一気に様相が変わる。浅い層ならちょっとした打ち身で済む怪我も深層じゃ骨折してもおかしくない。
せめてしっかりした武器防具を買ってもらいたい俺は彼女の申し出を渋々了解した。
「わかったよ……撮影機材や装備品、買ってやるよ」
ま、ちょうどバイト代も入ったし可愛い姪っ子のためだ。
「ありがとう。愛してるよカイ兄」
「……それお義兄さんの前で言うなよ、あの人本気で美波のこと溺愛してるからな」
とりあえず金を降ろすかと席を立とうとすると美波はもう一度手を合わせ上目遣いでお願いしてきた。
「そうだカイ兄」
「なんだよ」
「ついでなんだけど、アシスタントもお願いしていいかな?」
「……は?」
※
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