第5話 夏休み、八月。絵里さん

 久々に会った絵里さんは、前に会った時と変わらず美人だったけど、なんだか儚げな雰囲気を漂わせている。そんな彼女がコーンの中のアイスの角に歯を立ててかじり取る。少しだけ子供っぽいその動きに不思議と目が引き付けられてしまう。


 やがて手に持ったレーズンバタークランチが半分の大きさになったところで、彼女は顔を上げて、ぽつりと言葉を漏らした。


「私ね…………失恋……したんだ」


 再び目は下に向けてしまったけれど、彼女は少しずつ舌と唇でアイスを舐め取りながら話してくる。


「振られたとかじゃなくて、私が一方的に好きだった男の子に彼女が出来ちゃって……その相手は私の親友なんだけど……心の整理ができないっていうか……」


 ぽつりぽつりと語る彼女の話を聞いていると、俺の心の中にも白いワンピース姿の妹が思い出されてくる。うれしそうに彼氏を惚気る妹の顔が、脳裏にもやもや浮かぶ。


「わかる、俺も最近、そういう事があって」

「そうなんだ、じゃあ私たち、失恋仲間だね」


 彼女は無理した笑顔を浮かべて、微笑みを見せてきた。

 きれいな瞳から涙がこぼれて頬を伝わっていくのに、気にするそぶりもない。


「そんな感じかもな」

「ねえ、そっちのアイスも食べてみたい。交換しようよ」


 そう言って絵里さんは半分食べかけのアイスのコーンを押し付けてきた。代わりに俺の手からチョコミントを奪い取り、パクリとかじる。


「うん、おいしいかも。私のも食べてみて、おいしいよ」


 泣きながら笑顔を浮かべる女の子に促され、さっきまで彼女のピンク色の舌が這っていたクリーム色のアイスをそっと舐め取る。


「甘い。でもおいしい」

「でしょ」


 これって間接キスだよな。そんな言葉が頭をよぎる。

 唇の縁に薄緑色のアイスをつけた彼女は、さっきより嬉しそうな表情だ。なんだか心の中がふわっと熱くなってきた。

 さっきまで俺が口にしていたアイスを、ペロリと舐める女の子をただ眺めてしまう。


「アイス、溶けちゃうよ」


 ふと見ると、俺の手の中で溶けかけたアイスがドロッとコーンを伝わって流れていくところだった。慌てて口に放り込む。

 一方、彼女はチョコミントのアイスをきれいに食べ終えて、いまはポリポリとコーンをかじっていた。それにしても絵里さん、食べている時は小動物みたいで可愛いんだよな。年上のはずなのに、まるで妹みたいに思えてくる瞬間があるのだ。


 やがてアイスを食べ終わり、まだ口の端にミントクリームをつけた彼女と目が合う。彼女は右手の指をこっちに伸ばしてくる。


「ゆう君、口の端っこにアイス付いてるよ」


 しなやかな指先が触れてきた感触がする。口の端を擦ってくる。そして彼女は俺の唇に触れた指先を自分の口に当て、ちゅっと舐め取った。


「絵里さんの口もアイス付いてるよ」

「じゃあ、ゆう君がきれいにして」


 俺も指先を伸ばして絵里さんの唇の端を擦る。その時、彼女は俺の指をぱくっと口に咥えてきた。指先に暖かく柔らかな感触。身体が一瞬硬直してしまう。彼女は少し赤く腫れた目で俺を見て、いたずらっぽく笑ってくる。


「ゆう君、さっき言ったことって、本当?」

「それって何の話?」

「私に女として魅力があるかって話」


 彼女を見つめ直す。潤んだ瞳、形のいい鼻に、さっき俺の指を咥えていた唇。歳の若さを感じる滑らかな白い肌、長く艶やかな黒い髪、女性としては背が高いかもしれないけれど、サマードレスに包まれた身体はしゅっとスレンダーで、それなのに胸は大きい。


「あります。ぜったいあります。そこについては自信があります!」

「じゃあ……」


 絵里さんは唇の端を上げて頭を少し傾ける。さらさらとした黒髪が肩を流れる。


「私のこと、抱ける?」

「はい、もちろんです!!」


 俺は思わず叫んでしまいそうになり、慌てて声のトーンを落とした。


「……もちろんです……」

「怪しい。本当に? 証明できる? 嘘だったら怒るよ」

「えーーー」



 ・ ・ ・ ・ ・



 その三十分後、俺は、というか俺たちは、窓の閉まったムーディーな照明の室内にいた。


 知識としては知っていたけれど、もちろん来たことなどなかったラブホテルはあっさり入ることが出来た。

 本当はいけないんだろうけど、フロントで何か聞かれるわけでもなかったし。


 サマードレスに身を包んだ絵里さんの華奢な肢体を抱きしめて、俺は縦横同じサイズのベッドに転がっていた。

 つい成り行きと勢いでこうなっちゃったけど、さすがに何をしているんだとも思えてくる。なんとなくだけど、腕の中で彼女の身体が震えているような気がするのだ。


 俺の中で理性と下半身が葛藤する。今のところ四体六で理性が不利だ。彼女が身を動かすたびに柔らかな圧力が身体に伝わってくる。大きな胸がグニャりとリアルな感触を伴って押し付けられている。理性が危うくなってきた。三対七。


 正直俺は自分がロリコンだと思っていたけれど、しょせんは男子高校生、おっぱいに勝てるはずなどなかったのか。いや、待てよ。

 俺は目を瞑って雑念を頭から振り払い、妹のことを思い浮かべることにした。


 つぶらな一重の目、ツインテの長い髪は華奢な腰まで伸びている。中学生にしても筋肉の付いていない手足は日焼けもなくひょろっと細い。妹の薄い胸、小さなお尻、イカ腹気味にポヨンとした妹のお腹を思い浮かべて、心を落ち着かせようとする。


 それにしても、あんな可愛い妹が他の男に取られるなんて。

 もし、妹が、あんな事とかこんな事とか……されてたらどうしよう……


 その様子を具体的に想像していたら、下半身の興奮が止まらなくなってきた。やばい。二対八になった。慌てて想像を中止して目を開く。

 絵里さんのパッチリとした大きな瞳と、正面から目が合う。


「ねぇ……ゆう君……脱がして……」

「はいっ!」


 命令なので仕方がない。彼女の身体を抱き起こして、小さい頃、妹の服を着替えさせていた時のように、サマードレスの裾を掴んで引き上げる。


「ん……」


 絵里さんが小さく息を漏らす。意外なことに彼女の下着は白色のおとなしいデザインで中学生みたいだった。つまり妹みたいなパンティーが露わになってくる。

 なんかヤバさを感じてきたけれど、今更止められない。そのままスッポリ頭から服を脱がせる。滑らかな白い肌の裸が露わになる。


 思っていた通り白いブラジャーに七割方包まれた胸はやっぱり大きかった。Dカップぐらいあるかも。わかんないけど。

 ウェストは余りくびれてない。胸の割にヒップもほっそりとしている。胸の割に華奢な肢体を目の前にして、俺の下半身の興奮が止まらない。一対九。


 そして残り一割の理性を不意打ちにしたのは、彼女のお腹だった。


 妹と同じで筋肉のあまり付いていない、少女っぽいポヨンとした裸のイカ腹を目の前にして、俺の最後の理性がプツンと音を立てて切れた。



――――――


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