06
◇
家に帰ったところで、私の帰りを迎えてくれる人は誰もいない。独り暮らしの宿命のようなものではあるが、この孤独についてはいつまでも慣れることがない。
「ただいま」と間延びした声をあげて、私は狭いワンルームの部屋に入り込む。外の空気によって冷たくなってしまった部屋の温度に、私は白い息を吐きながら、早々と暖房を入れるためにリモコンを探す。いつも物はおざなりにしか扱っていなくて、物を探すというだけでも時間を費やしてしまう。暮らし始めこそはきちんと物の置き場所を考えていたはずなのに、玄関以外の場所は整理されることはなく、また整理をするつもりもなく、ただただ掃除の甲斐しか感じられなさそうな部屋が完成している。
リビングのテレビの横の方に他の機器と重なっているリモコンを見つけ出して、ピッ、と電子音を鳴らす。最初こそは温いだけの空気が吐き出されるものの、次第に吐き出されるものはきちんと暖かいものになり、私はそれに安堵をした。
だから、なんだっていう話ではあるのだけど。
独り暮らしを始めてから、こうして一人で語るような思考がだいぶと増えてしまったような気がする。たまに人の拠り所を探すように独り言を吐いたりしてみて、その虚しさにあきれて笑いそうになる。
今は十二月ということもある、実家に帰るタイミングとしてはちょうどいいような気もするが、帰ればおせっかいとしか言いようのない言葉かけが行われるから、正直実家に帰るのにも面倒くささが勝ってしまう。
私は何をしたいのだろう。そんなことをぽつりと考えながら、私は暖まっていくリビングの空気で肺を温めて、虚しさをかき消すようにテレビをつける。適当につけたテレビからは今日からその付近にかけてあったニュースを放映していて、何も面白くないな、と感じた。チャンネルを変えてみたりしても、夕方としかいいようのない時間帯では子供向けの番組くらいしか見ていられるものはない。
その間にも私の耳の中で流れ続けている音楽が切り替わっていく。この音楽はいつごろから好きだったものだろうか。最近になって好きなものだっただろうか。それを思い出してみることにして、どうにか時間のやり場を、正しい孤独の解消方法を探してみる。
私は、矛盾している。
人と関わりたくない。日ごろからそう考えていて、人と関わる際にも勝つ欲というものが心に宿ることはない。義務的な日常を日ごろから演じているようなものであり、それが解消されることを自分自身で望んでいない。
そうであるはずなのに、実際に一人であるという状況を思い出せば、そこに温もりを見出してしまいたくなる。孤独であることを肯定することができず、それであれば大学に行った方が些かマシなのでは、とか、そんなことを考えてしまう。
矛盾している自分が愚かしくて嫌いだ。それを考え込んでしまう自分が嫌いだ。私に関わってくる人間が嫌いだ。いつまでも偽りの笑顔を浮かべてくるような、そんな嘘の塊みたいな連中が嫌いでしかなかった。
テレビを見ることにも飽きてはいるが、それでも流れてくる喧騒は消さないままで私はベッドに座り込んだ。座り込んでからは携帯を充電するためのコードを探して、ベッドの裏に手を伸ばした。
また曲が切り替わる。今度は中学生のころに好きになったバンドの曲だった。
懐かしいな、アルバムを漁って、それで時間をつぶすのも悪くはないな。そんな気持ちになって、私は見つけ出したコードを携帯に挿してから画面を見つめてみる。
「……ん?」
そうして挿したはずの充電器に携帯は反応しなかった。間違った方向で指してしまったかな、とか考えて、裏表で入れ替えながら挿してはみたけれど、それでも携帯が充電されることはない。根元のコンセントの方を覗くのは面倒だったけれど、それでも確認するためにベッドを動かしてみた。けれど、適切に挿入されているコンセントを見て、私はあからさまにため息を吐いた。
どうやら充電器のコードが壊れてしまったらしい。ブルートゥースのイヤホンも充電できるということで、裏表で携帯と併用していたものではあるのだけれども、格安の店で買ったから、その質が悪いものでしかなかったようだ。
……出かけなければいけない。
今から外に出る、というのは面倒だけれども、一人で孤独を実感するよりかはだいぶとマシなはずである。
私はまだ着替えていなかったことを思い出しながら、そうして冷たくなり続けている世界に身を乗り出した。
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