第一章 第12話:交錯する野心と新たな波乱
ギルド本部では、エドガーが上層部との会合に出席していた。
広い会議室の中央、重厚なテーブルを囲む男たちの視線が彼に集中する。
「エドガー、例の店との交渉はどうなった?」
質問を投げかけたのはギルド幹部の一人、フレドリック。ギルドの力を維持することに執念を燃やす男だ。
エドガーは頷きながら答えた。
「ルシアンは簡単には協力しないつもりのようです。ただし、彼の店の成長には明確な弱点があります。それを突けば、我々の条件を飲まざるを得ないでしょう。」
フレドリックの目が鋭く光った。
「弱点とは?」
「彼らはまだ独自の供給網を確立していない。商品が不足すれば、店の評判も売り上げも急速に落ちるはずです。」
別の幹部が口を挟んだ。
「だが、それだけでは不十分だ。彼らの顧客を奪う策も必要だろう。」
「すでに計画を進めています。」
エドガーは不敵な笑みを浮かべながら続けた。
「次の段階で、彼の店の商品をコピーした品を市場に流通させます。そのうえで価格を下げ、客を引き寄せる。いずれ、彼らはギルドの協力なしにはやっていけなくなる。」
幹部たちは満足そうに頷き、会議は終了した。エドガーは再びルシアンの店を訪れるため、席を立った。
その頃、ルシアンは店の裏部屋で商品管理の帳簿を広げ、供給元とのやり取りを確認していた。マリーアも隣でサポートしている。
「ギルドが仕掛けてくるなら、まず供給網を狙うはずだね。」
ルシアンは冷静に分析しながら言った。
マリーアは少し眉をひそめた。
「でも、私たちにはまだ十分な資本もないし、ギルドの資金力には太刀打ちできないわ。」
ルシアンは小さく笑いながら、彼女の肩に手を置いた。
「資金だけが力じゃないよ。僕たちには、柔軟な発想と彼らにはない視点がある。」
その言葉に、マリーアは少しだけ安心した表情を見せた。だが、彼女の胸にはまだ不安が残っていた。
「具体的にはどうするつもりなの?」
ルシアンは帳簿を閉じ、真剣な目で答えた。
「まず、信頼できる新しい供給元を探す。それから、ギルドが市場に安価なコピー商品を流すのを見越して、僕たちだけのオリジナル商品を作る。」
マリーアは少し驚いた顔で尋ねた。
「オリジナル商品って、どんなものを?」
「まだ具体的には決まっていないけど、ギルドが模倣できない、特別な付加価値を持った商品だよ。たとえば、限定された地域の素材を使った商品とかね。」
その夜遅く、再びエドガーが店を訪れた。彼の態度は前回よりも明らかに挑発的だった。
「ルシアン、考えはまとまったか?」
エドガーはカウンターに肘をつきながら、鋭い目でルシアンを見つめた。
ルシアンは微笑みを浮かべたまま、肩をすくめた。
「ええ、僕たちの方針は決まりました。ギルドの協力なしで進めることにします。」
その言葉に、エドガーの表情が一瞬硬直した。
「そうか…では、君たちがどこまでやれるか見物させてもらおう。」
エドガーはそのまま店を後にしたが、背中からは明らかに不穏な雰囲気が漂っていた。
エドガーが去った後、マリーアは不安げに口を開いた。
「本当に大丈夫なの?エドガーの様子、ただの交渉じゃないように見えたわ。」
ルシアンは軽くため息をつきながら、彼女を見つめた。
「心配させてごめん。でも、僕は君を巻き込んだ以上、最後まで守るから。」
その言葉に、マリーアはほんの少し頬を赤らめた。そして、いつものように仕事の話を続けるのかと思った矢先、ルシアンがふっと笑顔を見せた。
「今日はもう遅い。少しだけ、気を抜こうか。」
その提案に、マリーアは少しだけ戸惑ったが、やがて彼の優しい目に引き込まれた。二人は静かな夜の中で、ほんのひととき、仕事を忘れて寄り添うのだった。
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