第一章 第11話:策謀と不安、そして甘い夜
ある日の午後、ルシアンが店の商品棚をチェックしていると、ドアベルが鳴り響いた。入ってきたのは、以前この店を訪れたギルドの一員、エドガーだった。だが、今回はその表情が険しい。
「ルシアン、少し話がある。」
彼は店内を見回しながら強い口調で言った。
ルシアンは冷静な笑みを浮かべつつ、カウンター越しに答えた。
「それはご丁寧に。どうぞ、奥のテーブルでお話しましょう。」
エドガーは頷きながら椅子に腰を下ろし、すぐに本題を切り出した。
「最近、ギルド内で君の店が話題になっている。特に、あのディスプレイの工夫と商品の売り上げだ。君がどんな手を使ったのか、ギルドとして知る必要がある。」
その口調には威圧的な響きがあったが、ルシアンは動じなかった。
「それは光栄です。ただ、僕たちが努力して得た成功を、すぐにお見せする義務があるかは少し疑問ですね。」
柔らかな口調ながら、その言葉にははっきりとした拒絶のニュアンスが含まれていた。
エドガーは少し顔をしかめながらも、さらに続けた。
「ギルドが協力すれば、君たちの売り上げはさらに伸びる。お互いに利益がある話だと思うが。」
「なるほど。協力の提案ですか。」
ルシアンは一瞬考え込むような仕草を見せた後、微笑んだ。
「少し時間をいただけますか?ご提案について具体的に考えてみたいので。」
エドガーは立ち上がり、「すぐに答えを出せないのは理解する。だが、あまり長くは待たないぞ。」と言い残し、店を後にした。
エドガーが去ると、マリーアが心配そうに近寄ってきた。
「ルシアン、ギルドと関わるなんて危険すぎるわ。どうするつもり?」
「確かに危険だね。でも、この機会を利用しない手はない。」
ルシアンの声は落ち着いていたが、その目は鋭く光っていた。
「ギルドは僕たちの店を利用して利益を得ようとしている。その流れを逆転させて、僕たちが主導権を握る。」
彼の策はこうだった:
1. ギルドの派閥を揺さぶる
ギルド内部の対立構造を利用し、利益重視派と支配派の間に微妙な亀裂を生む。
• 利益重視派には、この店の商品をギルド全体で扱うことで売り上げを伸ばせる可能性を強調。
• 支配派には、「ギルドの支配力を維持するための実験的な協力」として提案。
2. 独自の供給網を確立する
ギルドの流通網を一時的に利用する一方で、新しい供給ルートを構築し、最終的にギルドの影響を排除する計画を進める。
3. 協力の条件を仕込む
ギルドがこの店に依存せざるを得ない仕組みを作り、長期的な関係を主導する。
ルシアンは策を説明しながら、冷静に続けた。
「成功するかどうかは分からないけど、相手に飲み込まれるだけなんてつまらないだろう?」
その夜、ルシアンが計画書を作成している間、マリーアは店の帳簿を見つめていた。しかし、その手は止まりがちだった。
(ルシアンは本当にすごい人。でも、こんな大きな計画を本当に成功させられるの?私なんかで支えられるのかな…)
不安が胸を締め付ける。彼の背中を見つめるうちに、仕事のパートナーとしてだけでなく、彼に対する別の感情が渦巻いているのに気づいてしまう。
ふと、ルシアンが顔を上げて微笑んだ。
「どうしたの?ずいぶんと難しい顔をしてるね。」
マリーアは小さく首を振り、「なんでもない」と答えたが、目を合わせられなかった。
「もし何かあれば言ってほしい。君が僕の一番の味方なんだから。」
ルシアンの言葉に、彼女の心はさらに揺れた。
「…本当に私は、あなたの力になれているの?」
思わず漏らした問いに、ルシアンは驚いたような顔をしたが、すぐに立ち上がり、そっとマリーアの手を取った。
「もちろんだよ。君がいなければ、この店も僕の計画も成り立たない。」
その言葉に安堵を感じつつも、彼女の心はまだ完全には晴れない。だが、次の瞬間、ルシアンが彼女を優しく抱き寄せた。
「今夜くらい、仕事のことは忘れようか。」
彼の囁きにマリーアは頷き、彼らはそのまま甘い時間に身を委ねていった。
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