第一章 第6話:信頼の種を蒔く
ルシアンとマリーアの店が開業してから数週間。徐々に常連客が増え始め、店の雰囲気にも活気が出てきた。しかし、それでも二人の関係はどこかぎこちなく、特にマリーアはルシアンに対してまだ距離を置いているようだった。
そんなある日の夕方、店が一段落ついた頃、マリーアは厨房で食材の整理をしていた。そこへ、いつものように帳簿を確認していたルシアンが顔を覗かせた。
「マリーア、少し時間あるか?」
「ええ、どうしたの?」
彼女が振り返ると、ルシアンは店のカウンターに小さな箱を置いた。そこにはいくつかの古びた陶器が並べられていた。
「これ、隣町の露店で手に入れたんだ。アンティーク品として使えるかもしれないと思ってね。」
「これをどうするつもり?」マリーアは不思議そうに尋ねた。
ルシアンは微笑みながら答えた。「ただ並べるだけじゃなくて、これを再利用して新しい商品にしようと思うんだ。例えば、器をアレンジして装飾品にするとか。」
彼の言葉に、マリーアは少し驚いた表情を浮かべた。「そんなこと、考えたこともなかったわ。でも確かに、ユニークで目を引くかもね。」
翌日、ルシアンとマリーアは陶器を洗浄し、簡単な修繕を施す作業を始めた。マリーアは最初、少し不安げだったが、ルシアンが細かい部分まで丁寧に手を動かしているのを見て、次第にその姿勢に感心し始めた。
「ルシアン、本当に器用なのね。」彼女がぽつりと漏らす。
「昔から細かい作業は得意だったからね。それに、こういう工夫をするのが楽しいんだ。」ルシアンは軽い調子で答えたが、その表情には真剣さが漂っていた。
マリーアはふと気づいた。ルシアンはただ店の経営を考えているだけではなく、彼女自身の提案や意見を尊重している。そして、その行動の一つ一つが彼女のために思いやりを込めているようにも感じられた。
数日後、リメイクされた陶器が店内に飾られた。それらは単なるアンティーク品ではなく、新たな価値を持った商品として生まれ変わっていた。
「すごい…こんなに売れるなんて!」マリーアは驚いたように声を上げた。
ルシアンは落ち着いた表情で頷いた。「どんなものでも、見方と工夫次第で価値を見出せるんだ。それに、君の手伝いがなかったら、ここまで完成度の高いものにはならなかったよ。」
その言葉に、マリーアの顔がわずかに赤らんだ。彼の誠実な態度と、どんな細かいことにも全力で取り組む姿を見て、彼女の中でルシアンへの印象が少しずつ変わり始めていた。
その夜、二人は店の片付けをしながら、少しだけお互いの過去について話をした。マリーアはこれまで語ろうとしなかった故郷の話を口にし、ルシアンは丁寧に耳を傾けた。
「正直、最初はどうなるか不安だったけど…あなたがいるおかげで少し安心できてるわ。」
マリーアが小さな声でそう言うと、ルシアンは穏やかな微笑みを浮かべた。「俺はただ、やるべきことをやってるだけさ。けど、そう思ってくれるなら嬉しいよ。」
マリーアは何か言いかけたが、その言葉を飲み込んだ。ただ、心の中で確かに感じていた。ルシアンという存在が、彼女の生活に少しずつ根を張り始めていることを。
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