第一章 第5話:信頼の一歩
その日も、ルシアンはマリーアと一緒に店の改善に取り組んでいた。商品の配置を変え、少し高価な素材を使うことで価値を引き上げる提案をしてみたが、マリーアはどこか慎重だった。彼のアイデアには興味を示しているものの、心の中で本当にうまくいくのか、まだ見極めようとしているようだった。
昼過ぎ、ルシアンが店の一角で商品の並べ替えをしていると、マリーアがふと口を開いた。
「ところで、ルシアン…私の家族のこと、気になったりしない?」
ルシアンは手を止め、少し驚いた顔で彼女を見つめたが、すぐに微笑んで答えた。
「家族?別に気になるわけじゃないけど、君が一人で店を切り盛りしていることには興味があるな。」
マリーアは少し考えるように目を伏せたが、やがて静かに話し始めた。
「私の家族…実は少し前に、父が病気で倒れてしまって。それからは、母も体調がすぐれなくて…。だから、私は一人でこの店を支えているの。」
ルシアンはしばらく黙ってマリーアの話を聞き、ゆっくりと頷いた。
「そうだったのか…。それで、店を続けるのも大変なんだな。」
「ええ…でも、これが私にできることだから。お店は家族を支えるために必要だし、私も頑張らないと。」
マリーアはその言葉を言い終えると、またお皿を洗いながら店内に目をやった。ルシアンはそんな彼女を見つめながら、心の中で考えていた。
(家族を支えるために一人で頑張っているのか…。でも、まだ俺を完全に信頼しているわけではないみたいだな。まずは、結果を出して信用を得るしかない。)
その後、マリーアが商品の並べ替えを実行した。ルシアンのアドバイス通り、少し高級感のある素材を使った商品を目立つ場所に配置し、価格を少し上げてみたのだ。初めての試みだが、マリーアは少し不安そうだった。
夕方、店に常連客がやってきた。彼らは普段、手ごろな価格で買い物をしていた客層だったが、ルシアンの提案を少し試してみることにしたマリーアは、商品の新しい配置に気づくと興味を示した。
「これ、前と違うね…高級感があって、ちょっと魅力的。」
一人の常連客が手に取ったのは、ルシアンが提案した新しい木製の飾り物だった。彼女はそれをじっくりと見つめ、やがてにっこりと笑いながら言った。
「これ、いいわね。前よりもずっと素敵だわ。」
その言葉に、マリーアの顔が少し明るくなった。さらに別の常連客も商品を手に取って、買っていく姿が見受けられるようになった。
「うちのお店の雰囲気も、少し変わった気がするわね。これで、お客さんがもっと来てくれるといいけど…」
マリーアは満足げな顔を浮かべながら、さらに商品のディスプレイを整えていった。ルシアンもそれを見守りながら、内心で小さく頷いた。
(ようやく、一歩踏み出せたか…。俺の提案を少しずつ信じてもらえれば、もっと改善の余地が広がる。)
その後、マリーアが嬉しそうにルシアンに話しかけた。
「ありがとう、ルシアン。ほんの少しだけど、うまくいった感じがするわ。この調子で、もっと工夫をしていけば、うちの店も上手くいくかもしれない。」
ルシアンは微笑みながら答えた。
「まだ始まったばかりだ。もっとやれることがあるさ。でも、君の努力も大きいよ。」
マリーアは頷きながら、少し恥ずかしそうに目を伏せた。
「うん…。これからも少しずつ、ルシアンの提案を試してみたいと思うわ。」
その言葉に、ルシアンはにっこりと微笑んだ。
「分かった。結果を見てもらうのが一番だね。」
マリーアは安心した表情を浮かべ、再び仕事に取り掛かる。ルシアンは心の中で、次に進むべき手を見定めながら、彼女の様子を見守っていた。
(最初の一歩を踏み出せた。次は、信頼を深めるための成果を出していく番だ。)
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