第2話

 ミケ……?

「お前喋れたのか?」

「喋れるという訳じゃないが、声は脳に直接届けられるらしいニャ」

 テレパシー的なやつか。

 いやいやそれよりも、ミケがテレパシーを使えるなんて。

 親父も物珍しさで飼っていたのも分かる。

「ミケはいつから生きているんだ」

 ずっと疑問だったことだ。

 すでに死んでいても不思議じゃない年なのに未だにピンピン生きている。

 「人間の年数でいうところの50年ぐらいニャ」

 うちの猫は相当な長生きだったらいい。

 もしかして妖怪の猫又なんじゃないか。

 伝承では2つの尻尾だが、うちの猫は一本だ。

 「ミケの尻尾を見つめてどうしたニャ」

 「猫又かと思ってな」

 「猫又とかいうやつは知らんけどミケではないニャ」

 ミケは猫又ではなく、突然テレパシーが使える個体なのか。

 納得とか出来ないけど。

 ミケは親父が死んだこと知っているのだろうか。

 親父は自宅の帰路で死んだ。

 ミケは親父を探して最近外へ出かけているのだろうか。

 「ミケ。」

 「なんニャ」

 俺は悩んだすえ、話すことに決めた。

 「ミケが世話してた親父は――」

 「死んだニャ」

 え?知っていたのか。

 「どうして」

 「親父には死相が出てたニャ」

 ミケは死相まで分かるのか。

 やっぱりミケは猫又では無いのか?

 「親父は――」

 「あやつの死に方なんぞ聞きたくないニャ」

 ミケ……。

 親父の死に方に興味が無いのか、聞きたくないのか。

 どちらにしても、ミケは僕の口から親父の死因については出そうとしなかった。

 それからの生活は……あまり変わらなかった。

 ミケとの生活では、ミケの要望が聞こえるくらいで僕の生活に変化はなかった。

 心のどこかで波乱の人生になるとか思ってたけど、人生はそう変わらないらしい。

 「お主死相が出てるニャ」

 「え?」

 僕は突然の出来事に目が飛び出しそうになった。

 「それはどういうこと、ミケ」

 「そのままの意味ニャ。」

 僕はもうすぐ死ぬのか。

 「ミケ、なんとか回避する方法とか無いのか」

 ミケはしばらく黙り込んだ後、話し始めた。

 「大丈夫ニャ。何かあったら助けるニャ」

 ミケはただの猫では無さそうだから、本当に助けてくれそうだな。

 「ミケって化出来るのか?」

 「急になんニャ」

 「出来るのかなって」

 ミケが人化出来たら色々と便利そうだしな。

 出来るならやって欲しい。

 「無理ニャ。いくらなんでもそれは無理ニャ」

 「そうか、悪かったな」

 少しだけ残念でもある。

 ふと時計を見ると12時。

 昼ごはんの時間か。

 「猫缶が食いたい気分ニャ」

 猫缶って、意外と高いんだぞ猫缶。

 猫缶の蓋を開け、トレーに移し、ミケにあげる。

 「ご希望の猫缶だよ」

 ミケはとても嬉しそうに猫缶を食べる。

 「僕の昼ごはんは何しようかな」

 そういえばカレーがあったな。

 昼ごはんはカレーにでもするか。

 辛口レトルトカレー。

 レンジで10分温めるだけ。

 箱を開け、カレーの袋をレンジにいれる。

 「付け合せの具材でも出すか」

 冷蔵庫を開き、レタスを出す。

 レタスをまな板に置き、千切りにしていく。

 「こんなぐらいかな」

 余ったレタスをラップで包み、冷蔵庫に戻す戻したタイミングでチンという出来上がった音がなった。

 「あ、皿」

 キッチンの横にある棚から皿を一枚取り出し、昨日炊いたご飯を乗せる。

 レンジを開けると熱気が顔に押し良押せてくる。

 「あっちち」

 袋を開け、ホカホカのカレーを冷えたご飯の上に乗せる。

 先程切ったキャベツを添えれば完成だ。

 居間に運んでミケと一緒に食べる。

 「カレーニャか。親父さんも美味そうに食べてたニャ」

 出来立てのカレーを口いっぱいに食べる。

 「ふう、美味かった。ご馳走様でした。」

 カレーはいつ食べても美味しいな。

 レトルトだけど。

 「ミケ、猫缶は美味しかったかい?」

 「当たり前だニャ」

 それは良かった。

 猫飼い初心者だけど、ちゃんと出来ているのか心配だ。

 翌日の事だった。

 ミケが消えた。

 というよりも隠れたに近いのか。

 朝起きて食事の時間になってもミケは現れなかったのだ。

 いつもなら超特急で来るはずなんだけどな。

 縁側から散歩にでも行っているのか。

 「ただいまニャ」

 食事の時間から30分ぐらい過ぎた頃にミケは玄関のミケ用の入り口から入ってきた。

 「どこ行ってたんだ、ミケ」

 「それは……色々ニャ」

 「心配するからどこか行く時は一言ぐらいかけろよ」

 「言ってもお主は起きておらんニャ」

 ミケ……。

 何はともあれ、帰ってきてくれたなら安心だな。

 ミケはそのまま食事を済ませ、僕はテレビを見ていた。

 「お主は2階には上がらないのかニャ?」

 ミケの方から話しかけてきた。

 「2階?あぁ、物置になってるしね」

 2階は親父の遺品?というよりガラクタで溢れている。

 歩くことがやっとなぐらいだ。

 「そうかニャ」

 「どうしてまた聞くんだ?ミケ」

 「ちょっと気になっただけニャ」

 ミケはたまに2階にいることがある。

 ミケは親父のガラクタの中が落ち着くのだろうか。

 それは無いなそうだ。

 いつもそこの縁側にくつろいでいるから。

 ガラクタの中に行くのは何かに囲まれていたのか。

 「ミケ、外にでも行くか?」

 「嫌ニャ」

 即答。

 そこまで外に行くことが嫌なのか?

 「外は寒いから嫌ニャ」

 なんともミケらしい理由だ。

 春になったらミケも外に出てくれるかな。

 「ミケ、一緒にいような」

 「気持ち悪いニャ」

 ミケは優しいな。

 そんなこと言いながらミケは僕の膝の上に乗ってくる。

 これはとても癒やされる。

 「?どうかしたニャ」

 「いいや、なんでもない」

 春になったらミケと一緒に花見にでも行きたいな。

 ミケの頭をそっと撫でる。

 ミケは緩い表情になり、まるで溶けているかのようだった。

 ミケの毛ってめっちゃモフモフなんだな。

 冬毛だからか?温かい。

 ミケといればこのまま寝られそうだな。

 「寝るならこたつで寝るニャ」

 ギクッ。

 「なんで分かった」

 「顔を見ればわかるニャ。伊達に何年も生きていないニャ」

 たまに優しくて、いつもゆったりとしている猫。

 マイペースでおちょこちょい。

 そんな愛くるしい猫がうちのミケだ。

 「ミケ、ありがとう」

 「何がニャ」

 「居てくれて」

 ミケは顔を沈めてしまった。

 照れているのか。

 最初はどうなることかと思ったけど、ミケはとてもいい猫だ。

 親父がなんで死ぬ間際までこの猫を飼っていたのか分かった気がする。

 親父も同じ気持ちでミケと過ごしたのだろうか。

 ミケは――。

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猫と僕 東井タカヒロ @touitakahiro

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