猫と僕
東井タカヒロ
第1話
僕の家には猫がいる。
一軒家で庭付きのこの家は親父からの相続したもので、そこそこ年季があるが僕はそれなりに気に入っている。
特に庭に植えられた桜の木は良い。四季を感じられる。
そんな家には猫がいる。
親父が飼っていたであろう猫だ。
相続した時に付いてきた副産物である。
僕は猫を前々から飼おうと思ってたから好都合だった。
「ミケ、餌の時間ですよ」
ミケという名は猫小屋に書かれていたのでそのまま使っている。
ミケは黒猫で意外と気の利くやつだ。
疲れた時には寄り添ってくれる、ゆっくりしてるときは隣で一緒にいてくれる。
とても良いやつだ。いくつかの疑問があった。
親父が飼っていたミケは最低でも人間でいうところの80近い年齢なはずだ。
しかし、ミケは疲れる様子も無くピンピンしており、到底すぐ死ぬとは思えない。
それに僕が相続するまでの14日間はこの家で何をしていたんだ?
ミケは餓死していてもおかしくないのに、していなかった。
置いてある餌に手を付けた感じは無かった。
と、ミケにまつわる謎をかなり多い。
動物病院に一度連れて行ったことがあるが医師からは異常無しと言われてしまう始末。
「なぁミケお前は何者なんだい」
「ニャーン」
結局鳴き声しか返ってくることは無かった。
11時、もうすぐ講義の時間だな。
大学へ行く準備を始める隣でミケはおすわりをして待っている。
準備を終え、戸を開ける。
「行ってくるねミケ」
玄関まで付いてきてくれるミケは本当に良い子だ。
会ってまだ半月程度だが、それなりの友情?は芽生えたと思う。
大学の講義を終え帰宅するとミケがリビングの方から来てくれる。
お帰りと言わんばかりに寄り添ってくれる。
癒やしだ。一日の疲れが全て吹き飛ぶようだ。
肉球気持ちい。
「あ、」
ミケは肉球を触られるのが苦手なようだ。
「寒くなってきたなミケ」
ミケはうなずくかのように首を立てに振った。
「じゃ、こたつ出しますか」
確か親父の倉庫にあったような。
「あった、あった。こたつ」
リビングの中心にテーブルを置き、毛布をかけ、台を置けば完成!こたつ!
「ニャー」
「ミケも嬉しいか!」
ホカホカだぁ。体が溶けていく。
肝心のミケは中で丸くなっている。
あの歌は本当だったらしい。
桜はまだ葉が少し残っていた。ミケといつまで暮らせるだろうか。
永遠とはいかないだろうし。
いつかはお別れ……。
ミケと別れるの嫌だな。
「ミケは長生きしろよ」
ミケは了解したかのように頭をこたつからだし、すぐに引っ込めた。
可愛い。でも、ミケは結構おじいさんさんか。
まずい睡魔が。このままではこたつで寝てしまう。
ウッ、睡魔には勝てない。
「みかん、買わないと――」
目が覚めるとそこはこたつだった。
うっかりこたつで寝てしまった。22時。
ミケは!?起き上がるとミケは台の上でゴロゴロしていた。僕はほっとした。
この何事もない日常がずっと続けばどんなに幸せなことなんだろうか。
親父もこう思ったのかな。最後はミケと一緒で幸せだったのかな。
死んでるやつのことを考えても無駄か。そういえば親父死ぬ前、僕に電話でなにか言ってたような。
なんだっけ。
「宅配便でーす」
宅配便?なにか頼んだっけ。
「はい、なんでしょう」
「こちらに印鑑お願いします」
「ありがとうございましたー」
差出人は、親父?え?親父?もう生きてないはず。火葬もしてるんだぞ。
よく見ると差出人の住所がここだ。自分の家に届くようしていたのか。
一体何故。日付は親父が死ぬ5日前。ダンボールの中身は1つの封筒と猫缶20缶だった。
封筒の中には鍵と手紙が書かれていた。
『この手紙をみているということは誰かが相続したということだな。箱の中の猫缶はミケの為に予め用意したものだ。大好物なんだ。食わせろ。同封している鍵は貸金庫の鍵だ。真に必要になったら開けろ。ミケについての全てと50万円ほど入っている。』
親父、こんな手紙を書き残すなんて。やはりミケにはなんならかの秘密がある。
だが、この真に必要になったらとはいつだ?その時に開ければいいか。
あれ、ミケはどこだ?猫缶の入ったダンボールの中か。よっぽど好きなんだな。雪。
「ほら、ミケ見てみろ雪だぞ。綺麗だな」
今日も僕と猫の平和な日々が始まろうとしていた。
ミケは最近外へ出かけるようになった。僕が目を離している隙に外へ出かけている。
大体3時頃に出て、6時ぐらいに帰ってくる。散歩だろうか。
猫も散歩するものだろうか。外は寒いため探しに行こうとは思わない。
心配ではあるが、しっかり帰って来てくれるのであまり気にしていない。
その日は大学の教授がギックリ腰で講義が早く終わって3時半ごろに帰ってきた。
ミケは外に出かけているようで居間で待つことにした。ゆっくりと時間が流れていく。
こたつに入りながら待つと眠くなってきた。
流石にこたつで2回も寝るのはまずいだろうと思うが体が動かない。
もう面倒くさいのこのまま寝ることにした。すると自然と寝られた。
起きろ!起きろ!そう頭の中に響く。その言葉が何回聞こえた頃だろうか。
こたつから起き上がると、膝のところにミケが戻っていた。
ミケ……戻ってたんだ。ミケは俺が起きたのを確認すると突然全力猫パンチしてきた。
「何するんだよミケ!」
ミケを見ろと言わんばかりに時計の方を指した。
7時。
「今ご飯あげるから待ってくれ」
さっきのセリフどちらかと言うとミケの方だな。
「大好きな猫缶だよ。」
ミケは猫缶を見るなり飛びついて食べ始めた。よっぽどこの猫缶が好きなんだな。
僕も夜食にしようかな。今日は冷え込むから鍋にでもしよう。
台所に行って気付いたのだが、肝心の鍋が無い。……。仕方ない。
フライパンで代用しよう。
「いただきます」
うっま。なにこれおいしい。フライパンでも全然いけるな。
ミケは鍋もどきには興味が無いのかこたつの下でぬくぬくしている。
ミケは猫舌だもんな。冬になるのも早いな。正月はミケと餅でも食うか。
そういえば倉庫に七輪があったな。正月になったら出すか。ミケ。
僕とミケは出会ってまだ日は浅いけど、それ以上のなにかがあると思うんだ。
「なに幸せそうな顔してるんニャ」
どこから声がしたんだ?
「ここニャ。ここ」
声の方を向くとそこにいたのはミケがいた。
次の更新予定
2024年12月6日 08:00 毎週 月・水・金 08:00
猫と僕 東井タカヒロ @touitakahiro
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