20つ目の友情

 「そういえば、さっき成仏の話してたじゃん。」短い襟足を手でき始めた後悔ちゃんを見上げてそう声をかける。突然変わった話題に驚いたのか、彼女は慌てたように「あっ、うん!それがどうした?」と返事をした。襟足を解いていた手はそのまま止まっていて、僕の目線に応えるためか彼女もこちらを見ている。

 彼女は僕より身長が高いから、座っても僕より顔の位置が高い。だから彼女の目線も僕の上から来るが、威圧感はあまりない。中学生や高校生からでも見下みおろされるとかなり圧力を感じることがあるが、大人である彼女からは何故かそんなものを全く感じない。

 そんなことを考えていると、彼女が一度立ち上がってから座る体勢を変えた。ショートパンツや上半身の動きからの予想だが、おそらくかなり足を開いて、腰を落として座っているのだろう。俗に言うヤンキー座りというやつだ。


 「で、成仏がなに?」会話の間が空いたのが嫌だったのか、少し機嫌が悪そうな彼女。先ほどよりも目を細めて、頬杖をついている。「あっ、えっと・・・。」彼女の雰囲気に押されて思わずひるみそうになる。しかし、過去に同じような状況になって怯んだ後ですごく後悔したことがあるから、ここで怯んだら負けだと自分を奮い立たせた。

 「あの、成仏ってどうやったらできるんですか?」彼女から濁されることも覚悟で聞いてみる。僕が知っている知識は、母親が教えてくれた”人は死ぬと空の上に行ってそこから僕たちを見ている”というものだけだ。

 母親は今ごろ空から僕を見ているに違いない。だから、母親に見られていても恥ずかしくないように学校も友だち付き合いも頑張っている。後悔ちゃんに声をかけたのも、それが大きかったのかもしれない。

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