Phase1 目覚めの轟
教室の片隅で
昼休み。教室にはいつも通りのざわめきと笑い声が満ちていた。
「あはは、やめろって!」「お前、この間他校の女の子と遊んでただろ!」
賑やかなグループが軽口を叩き合い、笑い声を響かせる。だが、その騒がしさが届かない教室の隅――
彼が座る席だけ、まるで異次元のように静かだった。誰も近づこうとしないし、彼自身も人の輪に入ろうとしない。いや、むしろそれを拒んでいるようにすら見える。
「なあ、やっぱ淡海ってさ……なんか怖いよな」
「分かる。話しかけても全然相手してくれないし、いつも一人でいるし」
クラスの一角では、数人の生徒が小声で囁き合っている。その視線はたびたびマヒロに向けられていた。
「でも、なんであんなツンケンしてるんだろうね――」
「いや、それがさ……淡海、裏ではめっちゃ暴力沙汰起こしてるって噂だぜ」
「えっ、マジで?」
「聞いた話だと、中学でヤバい事件を起こしたとか。あ、あとこの前、他校のヤンキー数人を一人で病院送りにしたとかも……」
「ええ……でもそんな風に見えなくない? 割と普通っぽいっていうか……」
「だから怖いんだよ。見た目が普通っぽい奴が一番ヤバいんだって」
生徒たちのささやきは次第に熱を帯びていく。しかし――。
「……」
マヒロがちらりと視線を向けた瞬間、彼らは一斉に黙り込んだ。その鋭い目線に、囁いていた生徒たちは怯えたように目をそらす。
それを見たマヒロは特に何も言わず、再び雑誌に目を落とした。
(またかよ……)
心の中で重いため息をつく。雑誌のページをめくる手も、いつしか止まっていた。
彼は目立ちたくない。ただ普通に過ごしたいだけだった。クラスメイトと仲良くしたいわけではないが、冷たくあしらうのも望んでいない。けれど、どんなに平穏を望んでも、周りの視線はいつも彼を"異物"として扱う。
その時、不意に頭上から声が降ってきた。
「……淡海君?」
顔を上げると、そこにはクラスの女子が立っていた。彼女は興味を惹かれたような表情でマヒロを見ている。
「それ、何の雑誌読んでるの?」
一瞬、マヒロの目がわずかに見開かれたが、すぐに無表情に戻る。そして雑誌に目を戻し、冷たく言い放った。
「暇つぶしだよ」
それだけ言うと、彼は雑誌を閉じて立ち上がり、教室の出口へと向かった。
彼の背中を見送る女子生徒は、少し困ったように苦笑し、小さなため息をつく。
「やっぱり淡海君、何考えてるか分からないよね……」
教室は再びざわつき始めた。しかし、片隅の空席だけが、ぽつんと静けさを取り戻していた――。
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