俺が強すぎて人生ハードモード
雨宮悠理
プロローグ
強すぎるのも困りもの
しかし、現実は無慈悲だ。彼は生まれつき「最強」という名の呪いを背負っていた。その力は、持つだけで世界と不和を起こす。モノを破壊し、人を傷つける。ほんの些細な日常でさえ、彼にとっては綱渡りだった。
たとえば、小学生時代のバレンタインデー。
「マヒロ君、これ……受け取って!」
初めて想いを寄せる女の子が、少し赤くなった顔で差し出してきた手作りチョコ。ドキリとする心臓の鼓動を抑え、そっと受け取ろうとしたその瞬間――。
手のひらに乗る前に、チョコは粉々に砕け散った。
「あ……」
女の子の目から大粒の涙があふれた。好きだった相手の目の前で、自分の気持ちが無残に壊れた。泣きじゃくる彼女に、マヒロはただ何も言えず立ち尽くすしかなかった。
「こんな力なんか……いらないのに」
彼は悔しさと自己嫌悪で胸がいっぱいになり、握りしめた拳を見つめた。だが、その拳さえ恐ろしい力の象徴だった。
中学時代。廊下で不良の矢口が、肩を軽く押してきた時も同じだった。咄嗟に反射した腕。その結果、矢口の腕は――粉砕骨折。無意識だったとはいえ、マヒロの力の暴走に周囲は怯えた。それ以来、矢口だけでなく、誰も彼に近づかなくなった。
時が経ち、高校生になったマヒロ。力の制御は、ほんの少しだけマシになったが、日常は相変わらずだった。
今日も教室の窓際で机に突っ伏しながら、彼は自分の手を握りしめた。力が暴発しないようにと、神に祈るような気持ちで。
「頼む……今日は何も起きないでくれ」
静まり返った教室の中、彼の心はいつもと同じ孤独に包まれていた。
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