第3話 朝
そこはどこにでもありそうな薄汚れた部屋だった。
部屋の隅には小さくなって蹲っている子供たち。
ベッドには二人の男が、ひとりの幼い少女を嬲っていた。
それは性的なものから物理的な暴力まで。
薬さえ打たれて、その幼い少女は最早廃人となることは免れないだろう。
そうして玩ばれて壊れた子供の後始末を、俺はやらされていた。
珍しい日本人ということで、俺は玩ばれるのを免れたが、その代わりに別の方面──犯されて、玩ばれ、壊された子供たちの始末人をさせられていた。
俺自身、その当時すでに人を殺めることに対する忌避感を抱いていた。
だから、壊されてしまった子供たちに対するせめてもの慈悲として、一刻も早くこの地獄から解き放ってあげようとした。
いや、
言葉なんてわからない連中を相手に、俺は自分が死にたくないという理由だけで、他の子供を殺した。
ポルノビデオからスナッフビデオ──そうした変態どもの需要の為に、売り飛ばされたり、親が居なかったり、誘拐された子供は集められて、犯されて、嬲られて、壊されていった。
俺からすれば言葉もわからない外人の子供。
白人黒人ばかりだからまだマシだった。
時にはアジア系の顔も見るものの、やはり言葉は通じないし、それに日本人的な特徴よりも、中華系の特徴から、同じ日本人と認識していなかった。
だから機械的に処理をしてこれた。
でも、それでも他者を殺めるという行為は、幼いながらに一般道徳心を持ち合わせていた俺からすれば、忌避感を抱き、そして恐怖と罪の意識から逃れるように、自らの心を殺して、言われたことを実行するだけの人形となっていた。
その頃の俺は、鏡を見れば死んだ顔と、
ある日、いつも通りに減った子供が補充された。
此処の連中の厭らしいやり方は、子供が半分程度に減ってきたら、新しい子供を連れてくるのだ。
新しい子供は何が何だかわからずに困惑の度合いが高く、先に連れてこられて恐怖のみが残る子供たちから惨状を聞かされて、現状を把握し、怯えるか、泣き出すかのどちらかで、泣き出した子供を選んで先に壊すことで見せしめにして、恐怖で縛り上げる。
すっかり屑どもの執行人として定着してしまった俺も恐怖の対象で、屑どもの仲間だ。
俺はそれに対して特に何も感じることはない。
感じる心は、もう残っていなかった。
いっそのこと、俺も愉しんだり出来てしまえば楽だったのかもしれない。
でも、そんな屑に堕ちるのは御免だった。
親に捨てられたとはいえ、それまでは貧しいなりにも日本人として育ち、一般的な道徳を学んでいた俺は、人を殺すのは悪いことだと知っていた。
そんな悪いことをしているのに、自分が死にたくないからとさらに悪いことを続けている。
先ず前提として、人殺しを悪だと思っているから、それを愉しむという思考にはならなかった。
あとは罪の意識と、自分が殺されない為の自己保身と、恐怖を感じない為に、自分の心を空っぽの虚無にして殺すことで、どうにかやっていた。
それが、連れてこられた子供の中に見つけてしまったのだ。
黒髪に黒目、肌は白いが白人というまでは白くなく、顔つきも整っているが日本人とわかる特徴を持った子供を。
その子は、他の子供たちとは違う視線を俺に向けていた。
恐怖ではなく、仲間を見つけたという風な視線だった。
「What's your name?」
見た目は日本人でも、口から紡がれたのは英語だった。
勝手に期待して、勝手に落胆した。
でも、彼女は俺に恐怖ではなく、興味を向けてきた。
それが、俺の、死んでいた心を動かした時だった。
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