第2話 集い 2

 

「おう、此処に、ここら一帯の用心棒をやってるカウボーイ気取りのガンマンが居るって聞いて来たんだがよ」


 見るからにガラの悪そうな、両手をズボンのポケットに入れながらメンチ切ってる輩が入ってきた。


「おい、お前に客だぞ」


「どこをどう見たら客に見えるんだ。クレーマーの方がまだマシだぜ?」


 上場とそんなやり取りをしながら視線はもう焼き始めてしまっただし巻き玉子に注いでいる。


「あの、他のお客様のご迷惑になりますので」


 そう言ってカウンターから出て、イザベルが相対する。


「んだこのアマ。テメェみてぇな股の緩そうな女に用はねぇよ。つか邪魔だどけ!」


「いいえ、退きません。今彼は、私たちの為に卵焼きを作るので忙しいんです。お客様でないのならどうかお引き取りください」


 相手の身長はイザベルよりも高く、ガタイもまぁそこそこ、顔も強面だが、彼女は全く退きもしないし怯みもしない。


 まぁ、こんなチンピラ程度に退く様なタマじゃねぇよ。


「舐め腐るなよアマぁ、痛い目見ないとわからねぇらしいな!」


 そう言ってチンピラが腕を上げた所に、割り箸を眉間へ向かって投げつける。


「いっっ、なにしやがる!」


「その薄汚ねぇ手でソイツに触れてみろ。テメェの指の5本が1本ずつ吹っ飛ぶ事になるぜ?」


 俺は視線をだし巻き玉子に向けながら、卵を巻いていく。


「おもしれぇ。やれるもんならやってみやがれ!」


 そう言ってチンピラ男は、懐から銃を抜いた。


 その瞬間、上場は着ていたコートの下からFN P90、サオリは後ろ腰からコンバットマグナム、イザベルは割烹着の後ろからモーゼル C96、そして店に居る他の客も各々銃を抜いて、チンピラ男に向けていた。


「撃ちたきゃ撃ちな。もっともその瞬間、テメェの身体は穴開きチーズになるけどな」


 沈黙が流れて、だし巻き玉子を焼く音だけが響く。


 また卵を巻いて、新しい卵をフライパンに注いで、ジュワァっという音が出る。


 焼けたらまた巻いて、そして中が焼けるまで少し待つ。


 その間も沈黙は続いた。


 中が焼けたらフライパンをひっくり返して皿に盛ってだし巻き玉子は完成だ。


 だし巻き玉子を盛った皿をカウンターの上に置いて、俺はチンピラ男と対峙する。


 目深に被っていた帽子を片手で僅かに上げて、始めて俺とチンピラ男は視線を交わした。


「っっっ、うるああああああああ!!!!」


 一発の銃声が響いた。


「い゛っ、でええええええ゛え゛え゛っっっ!!!!」


 煙が上がるのは俺が右手に握る銀の8インチのマテバから。


 チンピラ男の持っていた銃を撃って弾き飛ばしたが、弾丸の威力が強過ぎて銃を弾いても直進した弾丸は、チンピラ男の肩を掠めて店の木製の柱に突き刺さった。


「営業妨害、脅迫、並びに銃刀法違反の現行犯で逮捕する」


 そう言って警察手帳をチンピラ男に見せたのは松永だった。


「っぐ、て、テメェ、サツか!? 銃持ってるのは他のヤツらもだろ!!」


「彼らは俺の部下だ。警視庁警視総監の名において、お前を逮捕する。連れて行け」


「はっ!」


 他の席に座っていた客の中から2人出て来てチンピラ男に手錠を掛け、連行して行った。


「まだ居るんだね。ああいうの」


 それを見てマグナムを後ろ腰のホルスターに戻しながらサオリが言う。


「此処が警察官とガンマニアの溜まり場だって知らないのは、新参が良くやる事だ」


 そう言いながらP90をコートの中に戻してワインを一口飲む上場。


「マカロフか。まぁ、Cのコピー品だな」


 そう言いながら、俺は弾き落としたチンピラの銃を拾い上げて松永に手渡した。


「近頃裏の物流が増えたと聞いている。武器もそうだが、薬も増えているらしい。バイヤーを辿ってみたが、この街までは遡る事が出来た」


「人の出入りが激しいからな。ああ、それと、表の二軒目と六件目は黒だ。後で調査報告書をメールしとくぜ」


「ああ。令状が出来次第摘発する」


「12件目も黒ですよ。みっちゃんの所に来たお客様が愚痴ってたって聞いたわ」


「わかった。捜査員を潜らせて裏を取る」


 俺とイザベルの言葉を聞いて、松永の眉間にシワが寄る。


 警察官──そのトップへと異例の三十代で座れるほどの男は正義一直線で悪を赦しておけない正義漢だ。


 それはさて置こう。


「ほら、食うならさっさと喰え。焼きたてが冷めちまう」


 俺はカウンター席に戻って割り箸でだし巻き玉子に切れ目を入れて5等分にすると、ひとつを摘んで口に入れる。


 我ながら良く焼けていると舌鼓を打ち、ハイボールを流し込む。


 ガラガラッと店の戸が開かれた。


 時計を確認すると、約束の時間だ。


 俺は帽子の位置を整えまた目深に被ると、座っている椅子を回転させて後ろを向くと、脚を組んで口を開く。


「アンタがお困りの客か。俺の名はノワール。しがないただのガンマンだ」





to be continued…

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