第3話 とりあえず仮入部ということで
「思い出した……『絶叫令嬢』だ」
俺は
そして、改めて
あれだけの美人、入学早々から話題にならないほうが不自然だ。
そりゃあ、俺も隣クラスにとんでもない美人が居るとは耳にしたさ。
だが、その噂も1日と経たないうちに別の噂へと塗り替えられる。
きっかけは些細なことだった。
霜月夏音という超絶美人とお近づきになりたい不貞な男子生徒が、うっかり彼女に触れてしまったのだ。
それこそ、手が触れる程度の事故的なもの。だが次の瞬間、霜月さんは大絶叫を響かせて気絶したのだ。
簡単に説明するなら、霜月夏音という女子は男性耐性がゼロなのである。
男子に触れようものなら悲鳴を上げてぶっ倒れる体質、その容姿端麗な見た目と合わせて、ついたあだ名が……
『絶叫令嬢』
この事件以降、霜月さんへ近づく男子はパタリと途絶えたのである。
「それで、
「おもしれー女が沢山でしょ!?」
「それ、加点要素じゃなくて減点要素だからな!?」
仮にここがラノベの世界だとしても、主人公は入部を躊躇するだろう。
それこそ、貴重な青春の1ページを、体力クソ雑魚女、男子に触れると絶叫しちゃう女、極めつけは清潔さを捨てた泣き脅しをかけてくる女と過ごすときた。
愉快を通り越した狂気の世界すぎて、毎回1D100のSANチェックが入りそうなくらいだ。いずれ発狂してしまう。
「……それで、創作が出来ない俺を勧誘したのも、手助けしてほしいんだろ?」
「やだな~、そんなわけ……すみません、あります。助けてください」
「そこは言い訳しろよ。素直だなぁ」
頭を下げて助けを乞う桃春。ある意味、手段のためなら恥さえ捨てるのが彼女の美点とも言える。
「言っておくけど、俺自身は同人サークルを作るつもりもうないからな」
そう、桃春が俺を勧誘する、もう一つの理由である。
過去に俺が主体となり創作を出来るメンバーを集めた……そんな、実績を桃春は当てにしているのだ。
さて、少し昔の話をしよう。
中学生の頃、俺はいわゆる中二病の真っ只中であった。
そんな小っ恥ずかしい病気を患っていた俺は、当時読んでいたラノベの主人公に憧れて、その行動を模倣するという痛い行動に出てしまったのだ。
交友関係は最小限に留め、誰かが困っていたら手を差し伸べる……。
いわゆる『お人好し主人公』というやつである。
そして、この中二病な性格が転じてか、桃春との接点を持つようになったわけで。
恥ずかしくて思い出したくないのだが、桃春は容赦なく古傷をえぐってくる。
「
「誤解を招く言い方はやめろ!! 元同人サークル仲間というだけだろうが!!」
さて、昔話の再開だ。俺の目の前に居る雲雀桃春との関係についてを話そう。
まず、こいつは普通女子な風貌をしているが、実はイラストが描けて上手いのだ。
中学2年、偶然にも放課後の教室で桃春がイラストを描いているところに出会った。一人ぼっちの女子、夕焼けの差し込むノスタルジーな教室……そんな、何かが始まりそうな漫画とかラノベ的な光景に俺は大興奮。
気分が高揚した俺は勢いのまま「同人誌を出さないか!?」というライブ感満載な提案をし、彼女と他数名を誘い同人サークルを結成。
そうして、同人誌作成という大海原に飛び込んだ俺達は本を作り、即売会へと参加し、初参加にしては強気な50部数を売り捌いたのだ。
我ながら勢いって凄いなって思う。
まあ、調子こいて次の本を倍刷って、大量の在庫を余らせてしまったのは今ではトラウマでもあり、良い思い出でもあるのだが。
そんな酸いも甘いも噛み分けるようなサークル活動は1年足らずで終了し、受験勉強の始まりと共に自然消滅といった流れである。
「じゃあ、また一緒に活動をしようよ!! 別に仲違いしたわけじゃないし」
「断る。あのな、桃春は知らないが、本を作るのに、即売会への申請、締め切り管理、編集、サイズデザイン、印刷、流通、宣伝、当日の売り込み……創作以外の全部を俺が担っていたんだぞ? それに加えて他の人にも迷惑をかけて若干トラウマなんだよ」
「えっと、それは……ぐぅ」
桃春はぐぅの音も出ないのか、口を閉ざしてしまう。流石に当時の俺の苦労を想像してしまえば何も言えないだろう。
とくに人間関係は大変だった……いや、思い出すのはよそう。古傷が更に痛む。
「そもそも、なんで創作部にこだわる必要がある。文化部なら美術部、文芸部、漫研、一通り揃っているだろうが。仮に廃部になったとしても、部員の行く宛ならある」
「そうなんだけど……」
俺の指摘に桃春は言い淀んでしまう。
やや強めに言い過ぎたかもしれないが、桃春の部への思いを確かめる手段はこれしかない。
創作部を続けたい情熱があるなら良し。逆に、また泣き脅しをしてくるなら今度こそ家へ帰ろう。
すると、桃春は顔を上げて、淀みのない真っ直ぐな瞳で訴えかける。
「それでも……私は創作部を続けていきたい。だって、航季くんに憧れて部を作ったから」
「俺に?」
「航季くんは知らないと思うけど、私は中学の時、ボッチだったんだよ? そんな私に”お前のイラストをもっと色んな人に見てもらいたくはないか?”って、声を掛けてくれたのが航季くんなんだよ。たった1年間のサークル活動だったけど、私にとっては輝かしい日々だったんだ」
そう告げる桃春はノスタルジーに浸るように瞼を一度閉じて、再び見開く。
「だからね、航季くん。私は、昔の私みたいに孤立してしまった娘に手を差し伸べたくて、この創作部を作ったんだ。
夏音ちゃんは綺麗な容姿のせいで、人間関係でいざこざが起きて、深い人つき合いは出来ないの。
辞めちゃった娘たちは元々、私が無理して勧誘したから事情は少し違うけど」
「それで、居場所を作るための部活を作ったわけか……。ちなみに桃春は絵が描けるのは知っているが、他の二人は何ができるんだ?」
「夏音ちゃんは小説を。冬華ちゃんは創作と少し離れるけど、PCが得意なんだ。部のポスターも作ってもらったんだよ」
「なるほど。おおよその事情は分かった」
そして、困ったな。
想像していた以上にしっかりとした理由だ。桃春が泣きついて俺を勧誘した理由も、五月晴さんと霜月さん、二人の居場所を守る必要があり、必死だったわけだ。
ああ、くそ!! 泣き脅しより、よっぽど効果があるじゃないか!!
ここまで聞いて、「そうか、頑張れよ」なんて、知らんふりを出来るほど無情ではない。
俺は頭をかきむしりながら悶絶する。
「あ~~~分かったよ!!」
「入部してくれるの!?」
「それはしない。だが、手伝いはする」
要は廃部さえ止めてしまえばいい。
俺は桃春に向けて指を2つ立てる。
「廃部を阻止するのに必要な部員は2名。創作部の部員集めを手伝ってやるよ!!」
「おお!! それは、それはぁ……あ゛り゛が゛と゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛! ! 」
と、桃春は今日一番の嗚咽混じりの涙を流しながら、俺の手を握りしめてブンブンと豪快に振り回す。
その涙を見ながら、改めて実感してしまう。
どうにも、俺は何かを頑張って成し遂げようとするヤツを放っておけない性格らしい。
ラノベの主人公に憧れた中二病が継続して、そのまま地の性格として根付いてしまったのである。嘘も言い続ければなんとやらだ。
事情を聞いてしまえば放っておけなくなるのが分かってたから、逃げようとしたんだけどなぁ……。
とはいえ、聞いてしまえば仕方がない。死ぬわけじゃないし、気軽にやっていくか。
こうして、おもしれー女だらけな創作部の部員集めが始まるのであった。
計画メモ:廃部まで残り30日 必要部員残り2名
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【あとがき】
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