28 心を預ける

「まずは天辺から見て行くか、柄の頭にある金具、こいつはまんま柄頭って名前の補強具なんだ」


 モソモソの心刀から指を移動させ、茜の心刀から同じ位置にある金具を指し示す。


「形が全然違うだろう」

「はい」

「こいつは兜金って言ってな、本来は太刀拵えの補強具なんだ。半太刀拵えの多くは、鞘自体は打刀の物だけど、金物類だけ太刀の物が打ってある拵えなんだ」

「……これは……差せばいいんですか? 吊るせばいいんです、か?」

「こいつを見てくれ」


 今度は鞘に巻かれた下緒の真ん中にある、キーホルダーとか付けれそうな空洞のある突起部分を指差した。


「この下緒を通す部分を栗形と言って、差す鞘に付いている物なんだ。太刀の鞘は栗形に近い位置に足金物なる金具が二つ付いていて、これで太刀を佩く様に出来ているんですなぁ」

「はいッ 野太刀の此処だけ一杯巻いてあって強そうでしたっ」「鞄の取っ手みたいなやつッ」

「モソモソ言い方? 中には足金物っぽい物が付いてる太刀拵えもあるみたいだけど、栗形以外は滅多に見ない。まぁ半太刀拵え自体滅多に見ないレアレアの拵え何ですけどねぇ、その中でも低確率で遭遇する激レアレア例外拵えなんですなぁッ」


 ワンパク怪獣共が”へーっ”と感心してくれる。こいつらは生まれる場所さえ違えば、多くの人から可愛がられていたんだろうな。


 改めてアカネの心刀を手に取り、その全体像を眺めて行く。


「ふーむ……」


 柄巻は茜色、鞘は黒漆、鍔を含めた金具類は全て金、そして下緒は茜色。

 アカネの拵えはヒノエの拵えの色分布を、逆転した様な意匠をしていた。


「……いいねぇ」

「長いから太刀ですっ」

「でも反りがちょっと弱そうだから違うと思う、反ってる所も後ろじゃないもん」

「コイツは腰反りじゃなくて中反りだろうねぇ……腰反りは反りの中心が鍔側へ寄ってる刀の事だねぇ」


 アカネが”半太刀拵えには、どっちが収まってる物なんですか?”と聞いて来る。


「……正直分からん、遠い昔に調べた記憶頼りになるけど、太刀が収まっている場合も結構あった気がするし、当然打刀が収まっている事も多かった気がする。でも元を正せば論で行けば太刀かな? 元々太刀だった物を磨上げて打刀に直した例が多かった気がするから、それも含めたらね?」

「気しかしてませんっ」

「太刀に中反りはないんすか?」

「いやある、典型的な太刀の姿が反りの深い腰反りの刀ってことですなぁ」


 モソモソがちょっとドヤってキヅキを眺める。

 キヅキもキヅキで律儀にむっとしているのだから、この二人は本当に組み合わせが良かった。


 と言うか、僕のニワカ知識を吸収して、心刃らが刀の種類を予想し始めているんですが。

 どうしよう、ちょっと楽しいな。


「そうだ野郎共、賭けをしないか?」

「むんっ」


 即行手を上げたモソモソ。


「ムっ」


 出遅れたキヅキも即行で上げた。

 せめて何を賭けるのかを聞いてからにしな?


「何を賭けるんすか?」

「そうだなぁ……勝った奴らには、未来出来るであろうスイーツ店で師匠に奢らせる券を与えます」


 いきなりパンッ と、隣の部屋に続く襖が開け放たれ、此方の部屋へ悠々と踏み入って来る野太刀。


「話しは聞かせて貰った」

「お前はマジでよぉ……」


 切られた襖の方を向いて立ち上がる等と言う不穏な動きを見せた怪獣二頭の首根っこを掴む。


「おいおいお前ら、まさかみんなを呼びに行くつもりじゃないだろうな? 自分で言っててなんだけどちょっと懐が心配になって来たからこれ以上の参加は禁止です。


師匠腐っても森人だからね、基本サバイバル生活でどうにかなるから社会に参加する必要なくて金ないんだよ」


「んあっーーーー!!」

「みんなを呼びに行ってきますぅーーーっ」

「話し聞いてた?」

「ダメっすよ、師匠に迷惑を掛けちゃ」

「ヒノエくん……」


 やはり君は良く出来た子だよ。


「例え不公平に思う者が出てギスギスしてしまったとしても、私達は厄介になっている立場なんすから、弁えるっす」

「………………」


 ヒノエくん?

 ヒノエの発言を聞いていた者共が此方を見て来る。


 パンッと、廊下を挟んで向こう側にあった襖が開いた。そうして廊下へ悠々と歩み出て来る賢者。


「お前もお前でどっから湧いてんだよ!」

「賢者の小粋なスイーツ店はお子様割引三割引」

「おいてめーらっ みんなを呼んで来い、除け者は可哀そうであろうッ」

「しかしてめーはキメー特価で支払い料金五割増し」

「おーーーーーーいッ キヅキッ もそもそーっ 帰ってこーいッ」


 どれだけカムバックを叫んでも、一度解き放ってしまった怪獣共は戻って来なかった。


 そして賢者は何時の間にか消えていた――



 ――あーだこーだと背後から聞こえて来る騒がしい声に耳を傾けながら、欄干に腰掛け月を眺めていた。


 等としていると、みんなの輪に入れたとも入れていないとも言い難い位置に居た鈴鳴りが廊下に出て来た。そうして部屋の壁を背にして、僕の後方で佇み始める。


 流石に気になって様子を伺って見ると、左手を後ろに隠してぼっ立ちしている鈴鳴りがいた。


 後ろに隠されているのは心刀の様だった。


「……どうかしたのか?」

「…………」


 答えない鈴鳴りは暫し廊下を見下ろすと、謎のすり足カニ移動で距離を取って行き、見えない障害物を避ける様に大きく回り込みながら近づいて来た。


 何をするつもりなのか観察していると、直ぐ傍まで来た鈴鳴りが、隠していた左手を取り出した。


 そうして鞘に収まった脇差を懐へねじ込んで来る。かと思えば駆けて部屋へ戻ってしまった。


 鈴鳴りが落ち着いた位置は部屋の隅の隅っこ、そこでみんなの様子を眺める形で収まる。


「…………」


 悲しいねぇ、真面目な人間は。

 鈴鳴りが僕くらいのひとでなしなら、きっと気にせず輪に加わったのだろう。


 ヒノエも気にしていない風を装っているが、気もそぞろな会話を拾うに、離れてしまった鈴鳴りの様子を意識している様だ。


 しかし深く突っ込まず気にもしない様に気を付けているのは流石と言った所か、やっぱりあの子は、一人だけ成熟度が違う気がする。


 懐へねじ込まれた脇差を確かめる。

 懐に差しといてやる……とは言ったが、こう言う意味ではなかった訳だけど、これはきっと信頼の証だ、態々指摘するのは無粋の極みだろう。


 脇差とは言え、懐へ納めるには些かサイズが大き過ぎる感が否めない。


 だからと言って鈴鳴りの心刀を表で差すのは考え物だった。それに懐に差すとも言ったし、前言通りに隠し持つか。


 懐を探って、何とかかんとか座りが良い位置を探して行く。


「ふーむ…………」


 まだ分からないが、野太刀の助言に従っておいて良かったのかも知れない。


 少し僕は、汚い物を見過ぎたのかも知れない。まだ何かを判断出来る時期じゃなかった。

 何と言っても彼女たちは、右も左も分からない子供たちなのだから、まだ幾らだって変われるのだろう。だからきっと、この先間違いを犯すようになれば、それは僕が悪かったと言う事になるのだろう。


 今更人殺しには荷が重いとか思い始める僕は、やっぱりひとでなしの様だった。


 今になって失った部分が惜しくなるとは思わなかった。でもまぁいい、そのおかげできっと、生かしたい物を守れるのだから。


「…………」


 僕の道徳は、あとどれくらい持つんだろうか。全部無くなってしまう前に伝えて置かないと、人でなしが知ったややこしくて大切な部分も。


「師匠っ」

「なんだぁッ」


 振り返ってみればキヅキが立って挙手していた。

 雰囲気的に、みんな何方に賭けるのか決めた様だ。いや若干一名、被り付く様にして敷物の上へ置かれた茜の心刀を凝視しているモソモソは、まだ決め兼ねている様だった。


 そんなにか……あの子もあの子で食い意地があり過ぎな気がする。


「……決まったの?」


 キヅキが元気に”はいっ”と答えるから部屋に向かったが、此方の動きを見て焦り出したモソモソはやっぱり決まってなさそうだった――



 野太刀 ……太刀

 モソモソ …打刀

 気付 ………打刀

 丙 …………打刀


 忍 …………打刀

 茜 …………太刀

 恐れちゃん 打刀

 小太刀 ……太刀


 鈴鳴り ……太刀


 結果、佩表に銘を確認、元幅が広く先幅が細い中反りの大切先姿、師匠がニワカ判定で太刀と判断。




※※※※※※


 書き溜めている物がまだありますが、ここで一旦区切ります。ここまで読んで頂きありがとうございました。

 読み返してみると前準備と設定説明をするだけのクソみてーな物語になっていました。なのに読み続けてくれた方にすごく感謝です。とても嬉しかった。


 これじゃ書いている僕が満足しているだけで、読んでてハラハラもワクワクもないと気付きました。最初はもっと、可愛くて熱い少女らと殺伐とした理屈を並べる人でなし共が剣と魔法でバチバチに戦い続ける様な物語を書きたかったのに、気付いてみればこの始末でした。


 そもそもが、楽しみにしていたゲームのプロジェクトが無くなってしまって、そのゲームから想像出来た世界観で展開される物語が読みたかったが為に、世界観を拾って設定を考えた物でした。

 僕も読みたいと思っていたので、他にもそう思っている人が読んでくれそうだなと思っていたのですが、いざ書き読み返してみたストーリーはその世界観へ着地する為のこじ付け感が否めず、その為に動かされている登場人物の行動原理も文章もクソすぎて、物語りを書いている本人から見て読みたいと思っていた物になって居ませんでした。


 書いている本人がそう思ってしまったので、読む側からすれば更に退屈を極めていたことでしょう。


 刀に纏わる話しで少女らの学園チックな秘境集団生活モノ(バチバチに戦う)が読みたいと思っているので、また何時か再開するかもしれません。

 再開する時は物語の最初から書き直していると思います。その時見掛ける事があれば読んで貰えたら嬉しいです。


 とあるゲームのプロジェクトが再始動したら其方を楽しみに待とうと思います。


 こんな所まで読んでくれた人に更なる感謝を。

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心に刀を飼う少女達が世界から狙われている様なので安心して暮らせる隠れ里を作ろうと思います 糺ノ色 @haihainikki

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