02 異世界生活5年目の日常2

普段修行場として使っている、巨木の洞の中まで来ていた。


洞の中は狭々しく、しかし入ってみると結構広くも感じる、日中であろうと薄ら暗い、秘密基地の様な場所だった。


そんな所がテンションを上げてくれる修行場所の地面には、その辺で拾ってきた、様々な形状長さをした枝が並べられていた。



「ふむ……」



沢山ある枝の中から、打刀程度の長さと反りを持つ一本を手に取る。



「やっぱ最終的には刀を握りたいよなぁ」



枝を両手で握り直して数度素振りする。そして打刀想定の枝を、地面に並べられた枝の中で一番長い代物、槍を想定して拾ってきた枝の隣へ並べた。



「……ふーむ」



分かってはいたが、並べてみるとリーチの違いに改めて気付かされる。


確か武士が実戦で使っていた槍が2m70cm前後だった筈、刀は打刀で70cm前後、柄まで含めると約1mだ。


槍は半身開いて構えるから、その分リーチが縮まるとして……どれくらいになるんだろう?


まぁ仮に切り良く50cm分削るとして2m20cmだ、刀は正面から握るから1m丸々含めるとして、空想計算1m20cmものリーチ有利を槍使いに許してしまう。



「うーん……」



槍と剣で戦った場合、槍は攻撃を外してしまったとしても、1m20cmもの猶予があれば刀の間合いに入られる前に逃げる事が出来そうだ。


なら攻撃が外れれば即行逃げまくって態勢を立て直す戦法を取る限り、槍使いが剣士に負ける事は無さそうだった。


刀対槍の場合、刀を握った側は些細なミスさえ許されない一方で、槍側はミスが許される上で常に優位な立場で戦闘をコントロール出来るのだろう。


剣士が槍使いに勝つには、剣士の実力が槍使いよりも圧倒的に上でなければ、勝負にもならない予感が強かった。



「そもそも突き攻撃事態が厄介だよなぁ……」



遠い過去、刃物の突き攻撃をどう防ぐかで考えを巡らせた事が何度かあったが、結局防御精度が高そうな対処法は一度も思いつかなかった。


苦肉で思いつく対処法と言えば、経験技術に物を言わせて弾くとか避けると言う物だけ。


訓練すればそれなりに捌ける様になるのかも知れないが、突き攻撃を繰り出される度に、反射神経を問われるタイミングゲーを要求される上に、一つのミスも許されないのだから、本当に槍は厄介以外の何物でもなかった。


いや、別に突きに拘らなくても、遠心力を利用した叩きつけ攻撃をするだけでも強力だろうし、なによりそれらを相手が攻撃出来ない距離から一方的に押し付けられるのだから終わっている。


刀と槍でさえこの感想なのだ、これが刀と魔導で比べるとなると……



「…………」



距離に勝る武器はない、そんなことは分かっているけど、それでも認められない物が男子にはあった。僕は刀を握って最強を勝ち取りたい。きっとその時の姿は世界最強レベルでカッコいい筈だ。



「……刀に鎖を付けて、振り回して投げる。とか……」



遠距離攻撃に適してない武器で敢えて遠距離攻撃をするくらいなら、素直に遠距離攻撃の為に作られた得物を握った方が万倍強いだろう。


攻撃のバリエーションとして遠距離まで届く技を持っておくのは有用そうだけど、その攻撃を主体にしたり、頼りにする様な事があってはならない気がする。


魔導への対抗策としては弱い気がする。



「全てを圧倒するスピードとぱわーを手に入れる」



馬鹿みたいだけど、何だかんだでこれが一番正解に近い様に思えた。得物のフィジカル不利なんてねじ伏せてしまえる位に、僕自身が実力を付ければ良いのかも知れない



「まぁ結局は魔力次第だよな、魔力でどこまで出来るかで話しが変わって来る」



魔力、それはこの世界の大気に含まれている一元素だった。


父が勧めて来た魔導とは魔力を活用する技術体系の様だ。まずは世界に魔力があって、その使い道を探る中で築かれた技術が魔導、魔の道と呼ばれる様になったらしい


僕が初めて魔導の手ほどきを受けた時、父は魔力を”余剰分の可能性”と説明した。


この星の理や万物を生み出した力、その余り分が魔力なのだと。

その理に欠けや偏りが生じた際、魔力は歪みを正す為に待機している素材なのだと。


だから魔力はありとあらゆる可能性を孕んでいると言えた。


と聞けば何でも安易に出来てしまいそうに思えるが、実際の所はそう易々とコントロール出来る力ではない様で、だからこそ魔導を学ぶ事で……才ある先人が切り開いた道を歩む事で、多くの凡人も星の力の真髄に触れる事が出来る様だった。


しかし、どれだけ困難な道だろうと、諦めずに探求し続ける限り、魔力には無限の可能性が眠っていることもまた事実。


例えば、特別な修行を続けて行けば、何時か魔力を利用して刀に炎を纏わせる事が出来る様になるかも知れないし。


敵との距離を瞬間的に詰めるインチキ歩方や、空を蹴って走ったり、もっと特別で色々な異能力を開発出来るかも知れない。


そう、少年の頃読んで憧れた、あの少年漫画の主人公たちの様に。



「よしっ」



未来を考えると募るワクワクで、思わず両の拳を握ってしまう。


こうしちゃ居られねー、今日も修行をしなくては。とは言ってもまだまだ体を鍛える様な年齢ではない五歳児、今出来る事と言えば精神統一位な物だった。


早速秘密基地の中央で座禅を組み、瞼を閉じて精神統一を開始する。


父の話しによれば、魔力を感じ取り意識的に取り込む訓練を重ねる事で、体が許容する魔力の保有量を高める事が出来る様だ。


それは沢山食べる者の胃袋が徐々に大きくなって行く様に、逆に食が細く成れば胃袋も段々と小さく成る様に、休めば衰え、努力すれば鍛えられて行く物であるらしい。


この世界の事はまだまだ知らないが、そんな程度でもこの世界の文明を支えている技術が魔導技術である事には気付いている。


その技術の種である魔力の保有量最大値は、そのまま僕の肉体が許す潜在的な力の上限になるのだろう。


つまり魔力量を増やす事が出来る精神統一は、やればやる程、始めるのが早ければ早いほど得な修行と言えた。


継続は力なりを地で良く修行だった。



「ぐふふ……あぁ感じるぞぉ、今日も周り中魔力だらけさんだ。諸共僕に取り込まれるが良い、そして我が覇道の礎となるのだ」


「っ…………」


「ん?」



気の所為だろうか?

感じ取れる魔力の流れに、不自然な揺らぎの様な物が見えた。


その場所には他とは若干異なる魔力がある様に感じられる。この魔力の大きさと、形は……人だろうか?


驚いた、どうやら僕の魔力感知能力は、命が蓄えた魔力と、それ以外を区別出来る域に踏み込み始めている様だった。


と言うか、魔力の扱いに慣れるとこう言う事も出来るようになるのか。お父さん何も教えてくれなかったな。


まぁ遠距離魔導教え込まれるのが嫌過ぎて、僕が父を避けてたのがいけなかったのかも知れないけど。



「純粋な遠距離魔導を覚えたら負けッ」


「!!」



背後で物音が立ち、流石に無視も出来なくなって振り返る。

背後には、ほぼほぼ白い亜麻色の長髪をした、僕より少しだけ年上に見える、男なのか女なのか分からない美形の子供がいた。


洞の入り口からこっそり此方を覗き込んでいる子供。

その声を掛けるかどうかで迷っている様子は、どうにもこうにも友達が欲しそうな感じだ。


同じ年頃のがきんちょを見付けてお友達チャレンジがしたくなったか、仕方がねぇなぁ……


見た目は童子でも中身はそれなりの僕、此処はお兄さんのでっけー人生経験値で子供をころころ遊ばせてやる場面か。


どら、ちょっくらがきんちょの遊び相手をしてやろうかな?



「こそこそ覗きやがってなんだお前はぁ!? 名乗りを上げろ、無礼であろう!!!」


「!? こ、この幹は我が家の所有物だぞッ」


「!! ……すいませんでした、勝手に使って」


「む……」



腕を組んだ子供が尊大な態度で面を逸らした。



「分かれば良いんだッ」


「今すぐ退けますね? だから父には言わないで欲しいって言うか……」


「……その前に聞きたい、どうして遠距離魔導を覚えたくないんだ? それは攻撃をする様な使い方をしたくないと言う意味か?」


「いや別に、寧ろ誰かとバチバチに戦いたい」


「? ならなんで?」


「……それ覚えたら剣握る必要なくなるじゃん」


「握らなきゃ良いじゃん」


「…………」



無作法者め。

こやつは浪漫が分からない民の様だ。多分話しても父さんみたいに正しい言葉ばかり返して来る。つまり話せば負ける!!


僕は様々な武器に似た外見を持つ枝たちを纏めて抱えると、歯茎を剥き出しにして正論パンチ野郎を威嚇し、巨木の洞から撤収して行った。



「くそぉ、遠距離魔導がそんなにえらいんか、寄って集って勧めてきやがって……」



別にあの子からは勧められて居なかったが、勧められている様に聞こえて仕方がなかった。


流石に遠距離魔導に対して敵対心抱き過ぎか?

と言うか実際の所、どんな魔導を覚えれば遠距離魔導の対抗策になるのだろうか?



「…………」



安易に思いつく方法なら、やっぱり距離を一瞬で詰めるか、そもそも僕の姿が見えなくなる様な魔導を覚えれば、接近して斬り倒す事も出来そうだけど。



「うーん……移動術と隠密術とか、忍みたいだな」



取り敢えずは距離を一瞬で詰める速さを得る方向性で強くなる手段を探ってみるか。あと新しい魔導を作る方法を父に聞いてみよう。


そして静かに修行出来る秘密基地も見つけ直さないと……誰かに修行している所を見られたら恥ずかしいし。

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