01 異世界生活5年目の日常1

前世も含めて培ってきた男の子の教養を総動員して考えると、近接戦闘を行う場合、ただ勝つことだけを目指すのなら、やっぱり槍を握るのが最強に一番近い様に思えた


でもそれではダメなのだ。

少年心の最強を求めるのであれば、何よりもまずカッコ良くなくてはならない。


只の最強ではなく、少年心が思い描く理想形を目指すのであれば、最強とは常にかっこよさと共に在らなくてはならない。何も僕は槍使いがダサいと言いたい訳では無かったが、それ以上にかっこいいと感じる最強の候補が想像出来てしまうのもまた事実


であれば当然槍を握る事は出来なかった。


そして僕のルーツは日本人だ。

武士の末裔足る日本人であれば、武士の心とも言える刀を握って最強と成らなければ恰好が付かないまではあった。


やっぱり目指すのであれば刀を握った最強に成りたひ……



「やっぱ近接武器の最強ビジュは日本刀だよなぁ……しっかり強い得物でもあるし、武士としてこの誇りを握らない手はないでござる……」



でも多分この世界には日本刀とかないんだよな。

職人に頼んで其れっぽい曲刀を作って貰うにしても、それはもう日本刀じゃないし。


日本刀の打ち方もいい加減にしか知らないから、そいつを職人に伝えても日本刀と呼べる様な代物は出来ないだろう。


そもそも製法を伝えた所で、日本刀って修行を重ねないと良い物が打てないだろうし、日本刀を求めても見た目が似ているだけのパチ物を握る事になりそうだ。



いや待てよ?

考えてもみれば僕だけが異世界転生何てラッキーに巡り合うとは思えない。


異世界転生が稀に起こる摂理だとして、過去にも日本人がこの世界へ飛ばされていたとしたら、或いは日本刀の製法が伝わっているかも知れなかった。



「うーん……」



故郷を出て世界を見るまでは、刀を握る夢を捨てなくても良いのかも知れない。



「ぐふふ、侍か、僕は二刀流より一刀流にかっこさよを覚えるタチなんだよなぁ、でも二刀流は二刀流で捨てがたいのもまた事実……一刀流の職人気質ないぶし銀か、二刀流の華やかな歌舞伎役者か、どっちのかっこよさを目指した物か」


「おーい、倅よぉー?」



不意に聞こえた太い声で、心地が良い妄想の空を漂っていた意識が地に落ちた。

背後から聞こえて来る声が、”一体何を考えていたんだ?”と尋ねて来る。



「……何でもないよ、お父さん」


「そんなお前に父から助言を与えてやろう」「いい」「良いか息子よ、強くなりたいなら、魔導を学ぶべきだ」


「……僕は魔導を組み込んだ武術を極めようとしているんだよお父さん」



背後に感じていた父の気配が更に近づいて、直ぐ傍でしゃがみ込んだ。そして情けを掛ける様に掌を肩へ置かれた。



「でもな息子よ、遠くから攻撃するに越した事はないぞ? 悪い事は言わないから純粋な魔導士を目指す事だ、それがお前の夢に最も近い」


「…………」


「どうだ? 父さんが簡単な魔導の手ほどきでもしてやろうか? 魔弾とか飛ばしてみたいだろう? ポンポンって」


「うっせっ」



父の手を払って自室を飛び出して行った。

なんか父から静止の声が掛かっているが、全て無視して家からも飛び出す。


家を飛び出した先には、無数の大樹が伸び、大樹と大樹の間に橋が架かり、道が作られ、くり抜かれた幹の中が家と成った。現実離れした景観を持つ集落が広がっていた


父が追い掛けてくる前に、幹に沿って作られた道を駆け抜けて行く。




確かに、接近戦の技術は最終的に遠距離攻撃に蹂躙されてしまうのかも知れない。でもそうじゃないんだよ……理屈がない最強は陳腐になるけど、理屈だけでも浪漫は語れないのだ。


僕の中にある理想形は、遠距離から強力無比な魔導をボンボコ撃つ固定砲台じゃない


技と駆け引きで互いの刃を凌ぎ合わせる様な、もっと泥臭い物だ。そこの所を理解してくれない父と話しても、水掛け論にしかならなかった。


話すだけ時間の無駄なのだ。

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