18 鈴の音
心刃らの共同部屋に帰ってみると、一人の欠けもなく寝ている子供たちの姿があった。
確認も済んだので、廊下を挟んだ隣の大部屋へそろりそろりと入って、贅沢な一人部屋で僕も布団に入る。
「ふぃー、まったく……」
本来であれば自室に戻って眠りたい所だったが、諸々あって少女らから余り目を放せない現状、彼女たちが自分自身で身を守る力を得るまでは、傍を離れる事は出来そうになかった。
「まさかこうもあっさりこの場所が見付かってしまうとは」
居場所を突き止められる事があったとしても、もっと遠い未来の話しになると思っていたのに、色々と予定が狂い過ぎだった。
甘食モソモソの言った通り前途多難過ぎる。
一応外で工作して来た物の、一体何処まで効果があるものか。
賢者から仙境へ辿り着くまでの経緯は聞いたが、賢者が知った以上の事情が、内通者を通じて教会側へ伝わっている可能性がある状況では、何も予想を立てる事が出来なかった。
「一滴の毒か……」
十分に気を付けたつもりだったけど、まだ足りなかった様だ。
とは言え今更言っても仕方がない、精々向こう側が賢者を殺した僕にビビりまくって、慎重になる事を願うしかなさそうだった。
その間に心刃達を早く強くしないと。
明日も朝一から彼女たちを鍛え上げるべく、眠りに付いて行った――
――それからどれくらい経っただろうか?
立つ者の気配が隣の部屋から伝わってきて、夢遊の世界を漂っていた意識が畳に叩き落された。
おトイレかな?
眠たい眼で暗い天井を眺めつつ、部屋を抜け出した者が何処に行くのか観察して置く。
すると其奴は僕の部屋の前に立った。
どうやら一人でおトイレに行くのが怖いお年頃らしい、仕方がないがきんちょだなと思いつつ起こされてやる準備を整えていると、そろりそろりと、成る丈音が出ない様に襖が開けられて行く。
そうして誰かが部屋に忍び込んで来た。
その足取りは抜き足差し足と呼ぶのが相応しいほど堂に入った抜き足差し足だ。
程なく枕元に立った少女の人影が、じーっと僕を見下ろして来る。
流石にこえぇ……
座り込んだ人影が、更に近い距離からじーっと覗き込んで来る。
そうして奴は掛け布団を捲ると、中にそろそろと潜り込んで動かなくなった。
「…………」
おトイレに一人でいけないお年頃ではなくて、誰かと一緒じゃないと寝られないお年頃ってこと?
良くは分からないが僕を起こさない様細心の注意を払って、程よい寝所をこそこそと探っている奴の意図を組んで、起きていないフリを続けてやった――
――それからどれくらい経ったのだろうか?
立つ者の気配が隣の部屋から伝わってきて、夢遊の世界を漂っていた意識が畳に叩き落された。
デジャヴかな?
眠たい眼で暗い天井を憮然と眺めつつ、部屋を抜け出した者が何処に行くのか観察して置く。
すると其奴は僕の部屋の前に立った。
襖がそろりそろりと音が出ない様に開けられて行く様子までシンクロしつつ、誰かが部屋に忍び込み、足音を殺して近づいて来る。
そうして枕元に立った人影がじーっと見下ろして来て、後ろ手に隠していた心刀を? 両手で掴み直し、喉笛目掛けて突き下ろして来た。
瞬間布団から飛び出して行った蛮勇野郎を布団へ押し戻し、心刀を握った両の手首を掴んで押し上げる。
手首を強めに握り締めて、痛みで刀を離させる。すると微かに鳴った鈴の音。
咄嗟に逃げ出そうとした襲撃者を引き倒した。
そうして僕の上へ倒れた野郎の背中をトントンして、ちょっとは落ち着けよと示す、両手首は一応捕まえたままにしつつ。
「っ……ぅ」
するとなんかメソメソし出した弱々の襲撃者。
頼りない守護者は出て行くタイミングを失ってしまったのか、息を潜めていない者に徹し始める。
一滴の毒が全てを台無しにしてしまう。
そんな理屈を強く信じる僕的には、異端分子は事情を洗い浚い吐き出させた後に殺してしまっても構わなかったが、あの野太刀が態々庇ったのだ。
あの子は僕や賢者と同じ様に、自身の利益や我儘に正直な上に、優しさよりも合理性を優先出来る人でなしの素質を持っている様に感じる。
そんな子が庇うのなら、この子はまだ変わる事が出来る道に居るのだろう。
ので責めはしなかった。みんなが居る中で不自然に呼び出したりもしない。こやつに嵌められた筈の野太刀が望んだように。寧ろ安心出来る様に接してみる。
すると捕まえていた両手の抵抗力が完全になくなった。
拘束を解放してみるとそのまま胸の辺りを掴んで来た両手、そうして小さな暗殺者は息を殺して泣くだけの存在と化した。
「むーん……」
仕方ないので暗殺者に布団を掛け、声が漏れない様に頭まで布団を引き上げておく。
頭もよしよし撫でてみると、強く顔を埋められた所から熱い感覚がじわじわと広がって行った。
ガチ泣きしてんじゃん……
どれほどの事情や傷があるのかは知らないが、泣き虫暗殺者を成る丈優しく寝かし付けてやった――
――それからどれくらい経ったのだろうか?
立つ者の気配が隣の部屋から伝わってきて、夢遊の世界を漂っていた意識が畳に叩き落された。
いい加減にしな?
眠たい眼で暗い天井をうんざりと眺めつつ、部屋を抜け出した者が何処に行くのか確かめておく。
もはや一々慎重に観察するのも面倒になって来た訳だが、此方の部屋の前に立った者が襖を開けて来る。
そうしてふらふらと部屋に入って来た何者か。
「師匠ぉ……トイレぇ……」
「……あ、はいはい」
せっせっと立ち上がって、寝惚け眼でふらふらしていた元気っ子の手を掴み、共にトイレまでの怖い道のりを乗り越えて行った。
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