17 夜の東塔で
良い子達が寝静まった夜更け。
そんな心刀まであるとは思わず、用意していなかった野太刀サイズの木刀を作る為の木材を選別し、外での用事を済ませ、日中出来なかった分の修行を終え、ついでに風呂を済ませた。
その後、今後のことを考えながら、無駄に立派で広大な本堂の敷地内を徘徊していると、敷地内にある東塔を見上げている賢者の姿が目に留まった。
「あ、お賢者先生さまさまだ。こんにちは」
「しっかり挨拶が出来て偉いですね、死になさい」
「一見大きい塔だけど籠るのには適してないと思う。暮らすための建物じゃないし」
「賓客室は既に見つけています、私は観光をしていただけです」
「どう考えても賓客じゃないんだけどなぁ……」
賢者の隣に並んで塔を見上げる。
「この境界の主は何処に? 中々見つからねーのですが」
「探そうと思って見つかる奴じゃない。隠れたあいつを見つけ出すのは絶対に無理だから」
「なぜそう言い切れるのですか?」
「80年間見つけ出そうと手を尽くして、結局見つけられなかったから」
「それはてめーが馬鹿だっただけでは?」
「容赦ないなぁ……この人」
「どんな姿をしていたのかだけでも教えろください」
「見つけられ無かったって言った筈だけど」
「見た事もねーと? 探した結果を聞いている訳ではありませんよ」
「……まぁあるけど、それ聞いてどうするんだよ、僕が見た時は白い鹿だったよ」
「無論ペットとして飼い慣らします」
「うわぁ……嫌われても知らないぞ……」
挨拶も済んだので来た道を帰って行く。
すると何故だか後ろに付いて来る賢者先生の足音。
「…………」
「……なんだよお前っ 付いて来るなッ」
「どの様にしてあれほどの魔力を得たのですか?」
「は? そりゃお前、修行ですよ」
「その修行がなんだ」
「いや……すごく効率の良い修行を開発して」
「どんな方法を用いた修業かと聞いています」
「……魔導を用いて、やるやり方って言うか」
「その魔導が齎す効果は?」
「内外の魔力が行き来出来ないようにする」
「具体的な魔力増加のやり方は」
「……遠心力で、ぐるぐる引き伸ばす」
”引き伸ばす……”と呟いた賢者。
「……この場所を見付けた経緯は?」
「噂を聞いたんだよ。一度入ったら抜け出せないし、見つける事も出来ない森があるって噂を。だから探してみた」
「そして囚われちまったと……馬鹿野郎ですね」
「煩いなぁ、そう言う隠れ易そうな土地が欲しかったんだよっ」
”ふむ”とか何とか納得した様子で漏らした賢者先生。
と言うかこいつ何時まで付いて来る気だよ……もういい加減どっか行ってくれよ。
「どうやらこの場所は転生者が残した場所の様ですね」
「…………」
「そして貴方も転生者ですね?」
「……まぁ」
「なるほど、貴方はやはり星に愛された者の様です。面倒な部分を削られてしまいましたね」
「…………何だよ、もう帰れよ、一人が好きなんだろう」
「本当の主を失った秘境が一つ、懐かしい気配を見付けて縋りつきましたか。貴方はお下がりを抱え込むのがお好きな様で、骨董屋でも開きますか?」
「何者なんだよお前はよー、何でそんなに色々知ってる訳? 絶対ただの人間じゃないでしょ」
「私は只の人間ですが天才過ぎたので世間が無知を許してくれなかっただけです」
「何コイツむかつく」
超絶むかつくので駆けて野郎を撒きに掛かる。
賢者は”今日はこの位にしてやります”と言って、追い掛けて来ることはなかった。
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