11 初めての試練2

「く、く、く……きたわね?」


 新たなる挑戦者が。

 その姿を木々の影からこっそりと確認する。

 次のグループは心身のケア方法がビンタの普通の子と、反応がガチっぽかった清純そうな子だった。


 ビンタの普通の子とガチっぽいお清楚か、何方も女の子女の子していて、なんか一気にいい匂いがしそうな組み合わせになってしまったな。


 そんな二人も何時になくパーソナルスペースが狭い様子で、奥の院をすごく遠巻きに見上げながら、中々前に踏み出せないでいる様子だった。


 そして二人とも表情が硬くて不安げだった――



 ――それから彼頃十数分ほど、普通のビンタとガチお清楚は未だに奥の院を見上げる地点から踏み出せていなかった。


 時々意を決する様に互いに目配せする事はあるが、結局挫けて最初の一歩が踏み出せず……そんな応酬を彼是十数分程度、これはもう、外から刺激を与えないと動けないかも知れなかった。


 この施設の雰囲気ってそのレベルで怖いのだろうか?


 前世も含めて人生百何十年ほど、子供の頃の繊細な恐怖心を忘れてしまった僕では、彼女たちの感じている恐怖の尺度が分かりそうもなかった。


 もしかするとこの試練は、彼女たちにはまだ難しかったのかもしれない。


「く、く、く……どうした物か……お?」


 なんて思っていると到頭動き出した二人。

 肩を狭めて胸の前で両手を握る姿は祈る様で、周囲を気にしながら歩む姿は酷く不安げで、やっぱり、二人は乙女力が特別に高い組み合わせに見えた。


「く、く、く……漸くその”時”が来たってことね?」


 僕は木々の影へとすぅ……っと引っ込んで行った――



 ――肩が触れる程身を寄せ合った二人の少女が、互いの両手を取り合いながら暗い廊下を進んでいた。


 それはとても遅い歩みだった。

 五感で感じる全ての変化に細心の注意を払う様にして進む二人が、閉塞感が強い廊下に、床の軋む音を響かせて行く。


 程なくして、二人が進む先に、襖の隙間から赤い光が漏れた部屋が見えて来る。


 立ち止まった少女たちが耳を寄せ合って何事かをひそひそと話し合う、その内容は”あの部屋でしょうか?” ”分かりません”と言う物だった。


 一応で設定している目的の物(ほんとはそんな物用意してない)を持ち帰る為に、どの道怪しい部屋は確かめるしかない状況だ。


 二人は幾つかの相談を重ねると、前へ向き直って、意を決する様に襖の前へ立った。


 強く手を取り合って困難に立ち向かおうとするその姿は、今にも”私たちずっ友だよ!”と言いだしそうな雰囲気だった。


 果たしてその友情は何時まで続くのか。


 二人が襖をゆっくりと開く、そうして出来た隙間を腰が引けた姿で覗き始めた。


 確認を終えると襖の隙間を広げて、まずはガチお清楚から、次に普通のビンタが続けて部屋へ入って行った。


 だから僕は部屋の前まで来て襖を閉めた。


 それはもうピシャリと。


 途端に響いた甲高い悲鳴。

 状況に気付いたらしい二人が必死に襖を叩いて来て、ミキサーに入れられた野菜みたいにガタガタと騒ぎパニくっている。


 僕は反省していた。

 一度目の試練が失敗に終わってしまったのは、逃げられる状況で追い詰めようとしたからだった。ので今回は密室に閉じめる事にした。


 程よく蝋燭も尽きて部屋の明かりが消えてしまう。二人は声も出ない程にビビりまくっており、控えめに言ってもパーフェクトな演出と言えた。


 そうして最後に立ちはだかる我と言う名の試練ッ


 真打の登場を前にして、果たして彼女らはどんな反応を見せるのか、ワクワクしながら襖を開け放った。


「がからちど……よれもまぁ!!ッ ……ま?」


 意気揚々と登場したは良いが、予想していた反応が返ってこない。


 不審に思って二人の魔力を探ってみると、床に転がっている二人の姿があった。


 二人は仲良く気を失っていた。


「…………」


 えぇ……――



 ――最後の挑戦者達が、山道を登って来た。


「来たか……」


 最後の挑戦者は三人、弱虫ちゃんとコミュ症ちゃん、そしてスッスだった。


 二人の引っ込み思案に囲まれて先頭を行くスッスは、彼女たちが付いて来れているか気に掛けながら進んでおり、まるで子供たちを引率する保母さんの様だった。


 実際もそんな感じで、すっすはスタート地点で、何方かが炙れてしまいそうな二人を一早く纏め、三人パーティーを作っていたのかも知れない。


 そんな保母さんに置いて行かれたら、流石に立ち直れないかも知れないなぁ……あの二人。


「く、く、く……既に不安です」


 此処までの結果を思い返すと、今回も失敗してしまう予感しか覚えなかった。


 三人が奥の院へ向かっていくのを確認した後に、僕は木々の闇へと還って行った。


 このやり方は失敗だったかも知れないと思いつつ。

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