第5話 おやすみなさい いい夢を

「ディプロスってちょっと体温低いのかな? いつもはどこに寝ているの?」


 どさくさでぎゅうぎゅうとくっつく。


 私は今まで不安だらけで、人恋しかったのかもしれない。ひんやりした感触も、金色のふわふわの毛が頬に触れるのも、気持ちが良かった。


 考えないようにしていたけれど、参ってたんだな、私。


「安心したら眠くなってきた……もう眠くて死にそう。今って夜だよね。何処で寝ればいい?」


「ミツキはまるで子供だな。僕はいつもこの辺りで適当に寝ているから、お前は好きにすればいい」


 ディプロスは諦めたようにため息をついて、先ほどベッドかなと予想した場所を指した。部屋の端に草と羽を混ぜたものが置いてある一角だ。


 ……やっぱりここだよね。ここ以外は板の床のみ。

 絶対に硬い。


「隣に寝る……訳にはいかないよね?」


「別にいいが。他に寝れそうな場所があるわけでもないし。明日何かしら草でも取りに行くと良い」


「わわー、一緒に雑魚寝とか女子会だ。まあディプロスと私じゃ、見た目的に結構年齢差はあるけどね」


 私がちょっとおどけると、ディプロスは眉をひそめた。


「ミツキと僕はおなじぐらいだぞ、見た目」


「それはディプロスが人間の年齢良くわからない的な物じゃなくて? 私も子犬かと思ったら老犬だった事あるよ」


「お前を犬だと思ったことはない」


「それはそうだ。でも私から見たらやっぱり若い子、だよ」


 それなのに友達なんて、とちょっと恥ずかしくなっていると、ディプロスは呆れたように目をすがめた。


「僕は精霊だと言っただろう。何歳だと思ってるんだ。お前より若いはずがないだろう」


「えっ。十代でしょー? どう見ても」


「……正確に数えたことはないが、三百を下回ることはない」


「えええええ! 年上! ちょっとじゃないぐらい年上!」


「お前は浅はかだ。……少しは敬う気持ちが産まれたか?」


「け……敬語とか使った方がいいですか」


 今更ながらに聞いたら、ディプロスは機嫌良さそうに笑った。


「すでに敬語に違和感しかないな。そのままでいい」


「良かった。……女子同士お泊り会みたいだもんね、えへへ」


「そうだな……安心しろ、安全なのは保証する」


 嬉しくなって笑うと、ディプロスは先程みたいに安全だと言ってくれた。

 ……優しい。


 ごろりと転がると、ディプロスも一緒に転がってくれる。干し草と羽が敷き詰められているだけの床にふたりでならんで、身体がちょっとだけくっついている。


 ディプロスという存在が伝わってくるようで、近くにいるという安心感がある。


 ……改めて考えたら、異世界なのだ。


 多分夜中に目が覚めて一人だったら泣いちゃうかもしれなかったから、心強い。


 ベッドは思ったよりずっと身体に優しい。

 草のいい香りがする。何気にリラックス効果もありそうだ。


 寝っ転がると天井がより高く感じる。上の方は暗くなっていてよく見えない。

 そう言えば光源はなんだったのだろう。

 部屋の中は明るくなったが、ライト的なものは見つけられなかった。


 これが異世界なのか、不思議だな。


「もうちょっとくっついていい?」

「今更だな」


 ディプロスはさっきと同じでちょっとひんやりしてるけど、くっついていたらじんわりと暖かさを感じてきた。これならずっとくっついて寝てもお腹は冷えなそう。

 安心。


 私はそっとディプロスの手を取る。


「私、謎の召喚に巻き込まれて異世界とか、ついてなくて最低かと思ったけど、ディプロスに会えたのは本当に良かった。こうして一緒にも寝られて楽しいな……」


「そうか」


 ディプロスは素っ気なく言って、ふふふ、と目を細めて笑った。

 その顔を見た私も、ディプロスが嫌がっていないことを感じて嬉しくなる。


「おやすみなさいディプロス」


「……おやすみなさい。ミツキ」


 背中にまわした手は、確かな温かさを伝えてくれた。


 こんなに誰かと近くにいるのは久しぶりだ。

 異世界に来たとは思えないほど、それどころかここ最近では一番に穏やかな気持ちで、私の意識は沈んでいった。

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