第3話 おうち訪問
わわわ。
さっきまでの異世界転移謎の森に放置から急な主人公的な要素!! 更に聖女!
そういう召喚だったらやっぱり世界は私の肩に?
私が慌てていると、美少女はふふっと笑った。
「違う。聖女召喚の儀式の時に、歪みに囚われこちらに来てしまうものがいるのだ。聖女は今頃王城の魔法陣の中にいるであろう」
「全然違った! なんか恥ずかしい」
でも聖女召喚なんてあるのか。やっぱりここは地球とは違うんだな……。
わかってはいたものの、なんだか感慨深い。
「聖女召喚があるってことは、私みたいに関係ない人を帰す事もできる?」
「召喚は時空を歪ませて越えさせる為、喚ぶよりも元の場所へ帰す事は何百倍も困難だ。まず無理だろう」
美少女は少し眉を寄せて、ため息をついた。
やっぱり、そうか。
喚ぶ時の何百倍の労力とは。
聖女ならともかく、巻き込まれ一般人に、そんな労力を割いてくれる気がしない。
聖女を喚ぶくらいだから、何か危機的な状況なんだろうし……。
そんなものに巻き込まれるだなんて偶然、かなり不幸な事故みたいなものだ。
もしかしたら、今生きているだけで幸運なのかもしれない。
「異世界には来ちゃったけど、罠にかかったのにすぐに助けて貰えたし、元気だし。逆にラッキーかもだよね」
「……その罠は家の周りに僕がはったものだ」
「わー張本人!」
「張本人とは失礼だな。ここは魔素が強い。人間なんて滅多にどころか全く来ないのだ。想定外なのはお互い様だ。……すぐに助けてやっただろう」
ぷっと頬を膨らませる彼女は、ちょっとばつが悪そうで、こんな時なのにかわいく思えてくる。
美少女ずるい。
「じゃあ、許しましょう。お詫びに魔法で美少女に変えてくれてもいいよ」
「意味が分からない希望を言うな」
「つい緊張から冗談言っちゃった。じゃあ、代わりにお名前教えてください」
「……」
教えてくれない。
「ううう。罠にやられた足が痛い。お名前聞いてもいいですか?」
「……怪我を盾に聞いてくるとはなかなかだな。僕の名前はディプロスだ。呼び捨てでいい。話し方も普通にしてくれ」
「ありがとうディプロス。そしたら私のこともミツキって呼んで。ふふふ。なんだかちょっとお友達みたいだね。ええとこの辺に家があるって事は、他にも誰かいるの?」
「いや、この辺に住める人間は居ない」
「えっ。この辺の人じゃないの? 罠は家の周りって言ってたけど、何かの謎かけ?」
しゃがみこんで私の足についた罠の跡を見ながら、女の子はため息をついた。
「大丈夫そうだな……。全く、こんな所で謎かけするはずないだろ。僕は人間じゃなく精霊だ。他の精霊もいないし、人間はこの森には住んでいない」
「えええ! 人間じゃないなんてそんな事あるの? うーん、でも……確かにこんな美少女は人間じゃないのかも」
なんだか納得できる。
絵に書いたような美少女で僕っ子。これは実在を疑うレベルだ。
「不思議な納得をするな……。ここに居る時点で普通ならわかるような気がするが」
「いや、人外なんて小説とかアニメの中でしか見たことないから! なんとなく頭に響くけど気のせいレベルかな? とか思うし。それ以前に可愛いしかないし」
「気のせい……」
見るからに呆れている。
急な森の中放置からの美少女登場に混乱しているし、何かが変だからってすぐ人外かな? って思える日本人はいないよ……私は鈍感じゃない。
でも、人間じゃないかもしれないけれど、きっといい精霊だ。
「そうそう、足が痛い痛い痛い。このままでは森の中で死んじゃうかもしれない……どこかに泊まれる場所があるといいんだけど……」
「まったく、見え透いた嘘をつくんじゃない。……とりあえず、今だけ、だ。言っておくが家には何もないからな」
ディプロスは押しに弱そうだ。他人事ながら心配になる。
一緒にいる間は私が気を付けることにしよう。
図々しい事を考えていると、ディプロスはさっと手をふった。
「わっ。なにこれ家だ……! どうやったの? これも魔法なの?」
堅剛そうな四角い見た目だ。素材は金属っぽいような感じで、森にあるとかなり違和感がある。でも豪邸には違いない。
ディプロスの家は正面には扉はなかったが、ぽっかりと開いた入り口のようなところがある。
その入り口には蔦を編み込んだ魔よけのようなものが吊下げられていて、今しがたかけたばかりのように新しく見えた。
ドリームキャッチャーにも似ている。
異世界でも願掛けとかあるのだろうか。
見た目豪邸(無骨)だけど、日本と同じぐらい快適に過ごせる部屋だといいな……!
異世界への生活水準に対する期待と不安が混ざったまま中を覗いたが、暗くて中の様子はわからなかった。
ディプロスは暗い部屋へそのまま入っていく。
靴はそのままで良さそうだ。
「おじゃましまーす」
「適当に座ってくれ」
ディプロスの声が思ったより遠くに響いたその瞬間、パッと周りが明るくなった。
「わー眩しい!」
「大丈夫か」
「目がやられた!」
「大丈夫そうだな」
全然心配してくれない。
眩しさにやられてしまっていた目をそっと開けた。部屋の中は思ったより広く、何もなかった。外観とは違い中は気っぽい素材に見える。
だだっ広い感じがちょっと体育館っぽい。
「これは生活感皆無」
「何もないって言っただろ」
「ディプロスってここに住んでるんだよね……?」
「そうだと言っただろう」
「……隠蔽の魔法を使ってまで、ここって何か守るようなものある?」
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