第2話 聖女の迷い子

 そう美少女だ。


 目ふわふわの腰まで届く金髪に、白い肌、どこまでも整った顔。


 大きめの目もまつ毛も金色で、まるで宝石のようにキラキラとしている。

 ちょっとたれ目な所も、ぷっくりした唇も可愛い以外の表現がなかなか見つからない程だ。


 白いワンピースが似合うとっても儚い雰囲気の美少女。

 多分中高生くらいだろう。


 うーん、逆さまで見ても可愛いだなんて、恐ろしい。


 森に美少女。場違い感が凄いが、異世界では可愛い子が多いのだろうか。


「……大丈夫か?」


 すっかり見入ってしまっていて、はっとする。これじゃ不審者だ。


「ええと、大丈夫じゃないです。何か罠にかかってしまったみたいで、外すの手伝ってもらえませんか?」


「わかった。ちょっと待ってろ」


 私のお願いに、美少女は軽い感じで頷いた。

 了承してもらてほっとしたものの、どやって下ろしてもらえるのかは気になる。


 私は割と肉付きのいい、成人女性。身長も平均ぐらい。

 私よりちいさい女の子が一人で逆さづりから降ろすのは難しそうな気がする。


 誰かを呼ぶ気配もなく、美少女は私のお腹のあたりに手を置いた。


「……ん、なに?」


「魔法で罠の解除をしなければいけないのだ」


「魔法!! うわー本当に異世界だ凄いなあ」


 私、宙に浮いたりするのかな?


 魔法というキラキラとした響きにうきうきと待ったが、全く何も起こる気配がない。

 美少女は首を傾げて手を見ている。


「……おかしい。魔力が反応していない? いや、これは……」


「どうしたの? ……あれ」


 美少女の驚いた顔を不思議に思っていると、私の身体の中を何かが通った気がした。

 でも感覚は一瞬で、ぺたりと胸に手を当ててみたれど何もない。


「……下ろすぞ」


 彼女はしばらくじろじろと私を眺めた後、どういう力なのかあっという間にするすると地面に降ろしてくれた。


 ……まさかの、力業だった。


 足には跡が残ったけれど、特に問題はなさそうだった。


「本当にありがとう、助かりました! 凄い力持ちでびっくりしちゃいました。さっきなんて変な感覚があったし、危なかったかもしれない。命の恩人です!」


「通った感覚……いや、別に、僕は」


 何故か気まずそうに眼をそらされる。もしかしたら私が早口でしゃべったのが怖かったかもしれない。


 僕っ子美少女に詰め寄るアラサー。犯罪の香り。


「……お前、身体は大丈夫か。変な感じはないか」


「なんか逆さが長かったせいでぐらんぐらんするけど、後は特に大丈夫っぽいかな」


 じろじろと見ながら真剣な顔で美少女が質問してくる。私が身体を叩いて大丈夫だと示すとあからさまにほっとした顔をした。


「……そうか。じゃあ僕はこれで」


 美少女はそのまま立ち去りそうな雰囲気を出した。


 まずい。


 いい人そうだし、ここで見つけた人間を逃すわけにはいかない。


 私はにこやかな社会人的笑顔で、自己紹介をすることにした。


「私は加賀水月です。ミツキって呼んでもらえると嬉しい。気がついたら森の中に居て戸惑って、さらに罠にかかって参っていた二十六歳会社員女。ちなみに会社は弱ブラックです」


「何の自己紹介なんだだそれは」


「初対面だから社会人的に挨拶してみたんだけど、もしかして異世界には社会人っていう概念がなかった……?」


「たぶんどこでも駄目だと思う」


「ここしか! 知らないくせに!」


「お前のいた場所ではそういうノリなのか……?」


「いや、こんな初対面挨拶したら多分殴られると思う。あ、殴られるは嘘。殴っちゃうと訴えられて負けちゃうから」


 もっと精神的にじわじわやるのがブラックだ……! ギリギリをせめる……!


「妙に陽気だな」


「その他いろいろで精神をこてんぱんにやられてたから……弱ブラックの会社の居心地がよく思えるぐらいに。今だって異世界なのか妄想に逃げ込んだのかって迷うぐらいなんだよ」


「そんな弱い精神がお前にあるとは思えない」


 本当なのに全然納得していない顔している。

 こんな知り合ったばっかりなのに、全然信用ない。


 悲しい。

 でも可愛いから許しちゃうやつだ。

 美少女羨ましい。


「私も美少女になりたい」


「……変身でもできるのか?」


「今なってたりしてない? 異世界に来たミラクルで。流行りだし」


「してないし、異世界に夢見すぎだろう……」


「やめて! 現実を見せないで!」


 かなしい!


 どうせ私は地味だと言われるタイプ。私の事を好きになるのはストーカーとか変な人ぐらいだ。


 ストーカー……。


 嫌なことを思い出してしまい、私は目をごしごしとこすった。


「……冗談はともかく。週末で家にいたはずなのに急に異世界っぽいところに急にこの森に居たんです。こういう迷子他に見たことあったりしますか? 元の世界に戻れる方法とか知ってたりするかな。後週末返して欲しい」


 知っていてくれと願ったのが通じたのか、美少女は思い当った顔をした後顔を覆ってため息をついた。


「ああ……お前は聖女の迷い子だったのか。……だから何も感じないし、こんな事に」


「聖女の迷い子……? え? もしかして私が聖女ってこと!?」

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