よっかめ:ふたりめ?

ふたりめ?


何でか分からないけど、もう一人いる。

ぼくがナゲットを片手に持って、化学の計算に舌鼓を打っていた所。

ふと視線を上げると、ぼくと同じようにナゲットを構える白髮青目のナナたん(仮称)。


と、もう一人。


いつも一人で二人席を占有している(ぼくもまぁそうだけど。)ナナたん(仮称)の向かい側に、女性が両肘を付きながら座っていた。

ショートカットの黒髪の女の子だ。結構癖っ毛。顔は角度の関係であんまり見えない。

でも目線はナナたん(仮称)の方に向けられているのは分かった。


そんな彼女の前には…お汁粉?缶の?

いや、一応ハンバーガーも買ってる。ぼくらより律儀。

けど、何故にこのまだ寒くない時期に、す〜ごいあつそうな湯気出てるお汁粉を飲んでるんだこの人は??

よほど好きなんだろうか。渋いセンスだな。二人共、めっちゃ若そうなのに。


名前が分からないので、便宜上お汁粉ちゃんと呼ぶことにしよう。


「それでね!ナナミちゃん!!」


お。話しかけた。

いつも周りの話し声は雑音に聞こえるのに。この子の声は妙に透き通っているからだろうか。

親しい人と話しているところを見られたら、誰だって気まずくなるよな…と思って化学反応式と格闘を再開したぼくの耳に、話の内容がスッと入ってきた。

集中しているぼくを妨げる程の…なんだろう、魅力?を持った声をしたお汁粉ちゃんは立て続けに話を進めていく。


…いや、早い早い。全然集中できなっ。もう少し、もう少しでいいから話す速度落として…。内容を理解する前に次の話が頭に放り込まれてぐちゃぐちゃだぁ。

なに?明日、何処行く?やっぱ水族館?最近MMO進化しすぎじゃない?椅子を買い替えようと思ってる?いつもナナミちゃんはここで何してるの…?

あ〜頭の中で情報が完結しない〜…何も集中できないよぅ。


「うるさい。公共の場。考えて。」


一筋の声が、マシンガン話声に混じって聞こえてきた。

…ぬ?

なんだろ?聞いたことがあるような声が。


…あ。あれだ。

ぼくの友達が見せてきたアレだ。


『お〜い!!これ見てみろ秋真ぁ〜!絶対ハマるからさぁ〜!!!』


って言いながら見せてきたとあるサイト。

ぼくもたまぁ〜に、暇なときに見るあのサイト。


『は〜い♪どもども〜!からみてぃグラビティ所属の猫々Vtuber!猫又ナナにゃにゃまたななだよ〜!!今日もよろにゃ〜♪』


…アレで聞いた声とおんなじだぁ。

しかも今日見せられたやつだぁ。


ってことはナナたん(仮称)は、ナナたんと同一人物ってことで合ってる?

だったらすご。猫耳は流石についてないけど、顔はほんとにそのまんまだ。ほぇ〜。

ってか、猫のビジュアルだったの忘れてた。発見初日に猫のカチューシャしてたわ。今日はしてないけど。何で気づかなかったんだろ。

ま、そん時はなんかみたことあるな〜って感じだったからな。

むしろ、今気づいたのもなんでだろ。割と休憩中に自然に見えちゃうからかな〜。


ま、気づいた所でどうもないけど。

やることと言ったら、友達に秘密にするくらいかな。

あの子、必死になると止まらないから。話してなんかこう壊れちゃったらダメだし。

友達がナナたんについて話すとき、なんというか…狂気を感じるんだよな。今思い出してもちょっと寒気するもん。O〜こわ。


「あ、ごめん…」

「ん。」

「あ、でもホントに謝るべきは違うよね!周りの人が迷惑しちゃったんだから!!私、ちゃんと分かってるよ!!!」

「あ〜。大丈夫だよ。別にそこまでしなくても。多分。」


あ。いい感じの速度になった。

勉強のBGMとして丁度いいかも。明日も二人で喋ってて欲しいな。


そんなことを思いながら、ぼくは集中モードの電源をオンにした。


…そういえば本名、聞いちゃったな。ナナミか。

面識ない人を名前で呼ぶわけにもいかないから、ひとまずナナたんでいいか。

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