2日目:またいる。

またいる。


昨日と変わらないあの席で、またナゲットを頬張っているナナたん(仮称)がいた。

イヤホンをして視界を窓から見える夕日に向けていたぼくは、左端っちょの方にかすめた白髮に反応して、目の焦点がそっちに合った。

リスニングの勉強ってぼく的には、文章を見るより全部聞けてるかどうかを確かめるものだと思ってる。だから、ぼくはこうやって目を休める間に冷たいレモンティーを飲んでるんだ。


…てか、今日もいるのか。

一体何しに来てるんだろ。少なくとも、ぼくは一昨日までナナたん(仮称)の姿を見かけることはなかったわけだし、何か用事でもあるんかね?この寂れた辺鄙な郊外に。

しかも、こんなごっついコスプレして。…この高齢化真っ只中な街にそんな行事なかった気がするんだけど…もしやあれが普段着だったりする?


だとしたらお化粧とかすごい大変そうだな(小並感)。

それに、たくさん話しかけられそう。人気爆発中のVtuberのコスプレなんだから。

…特にぼくの友達はがっつくだろうなぁ。ナナたん(仮称)を見たら。◯スピみたいに飛びついていくかも。

もしかしたら『なんで黙ってた?ァ?ゴラおい?』とか言われて、冤罪まで被せられそう。

ま、多分ナナたん本人じゃないだろうからな。多分セーフでしょ。

普段の姿であんな綺麗な白い髪もしてるわけないから。どうせ。分かんないけど。


マスタードソースをナゲットに付けながら、モッモッっと食べるナナたん(仮称)の姿をぼくは見る。食べるスピードは割と遅い。

ふと思う。

…マスタードソースか…ぼくとは相容れないな。


ぼく、辛いものが苦手なんだよねぇ。

それこそマスタードソース然り、カレーの辛口然り。

ガムでよくある、あの『爽快感MAX!!』みたいなんで、強烈なミントが付いてるやつあるじゃん。あれも無理。

刺激が強すぎて拒否反応が出るっていうか。味は美味しく感じるんだけどな…

こればっかりは、体質の問題だろう。自分で解決できることはないね。


…大分休憩したな。

考え事や物思いにふけると、時が立つのは早くなる。

ぼくは、結構トリップ癖があるからなぁ。ちょっと気にかかることがあると、すぐに物語とか、事の詳細とか、なんてことない妄想なんかをしちゃうんだよね。

それをこうやって、自分の中で言葉にして反芻するまでがセット。

う〜ん。なんと幸せな時間の使い方だろうか?


そう思わないかい時計くん。

おやおや、もう長針と短針くんは仲違いしちゃったのか。

ここは一旦ご機嫌取りのために帰ることにするか。家に帰ったら、ちょっとは仲良くなってるといいけど。


ピピピピっ…


あ。

タイマー止めるの忘れてた。いつもは鳴る前に止めてるんだけどなぁ。

やっぱりトリップしちゃうのは良くないね。

テキストを片付けていると、急な電子音にナナたん(仮称)がこっちを振り向く姿が視界の右端っちょに見えた。


こりゃ失礼。


ぼくは、すぐさま退散した。






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