第15話
第三十章:バレたら即刻ジ・エンド
慶一は、ルンバが静かに部屋を掃除する音を背に、深い思索にふけっていた。母親の研究が目指していたもの、そしてその目的が自分にどれほど影響を与えたのか、ようやくその一端を掴んだような気がした。しかし、その先にある「答え」や「真実」に一歩踏み込む勇気が、なかなか湧いてこなかった。
その時、千葉が不意に口を開いた。「君、覚悟はできているか?」
慶一は振り返り、その問いかけに驚いた。覚悟――その言葉が、胸の奥に重く響いた。
「覚悟?」慶一は口を開きかけたが、その前に千葉が続けた。
「君の母親がどれほど危険な実験をしていたのか、君が理解することができたら、全てが一気に変わる。今の君はまだ、その一歩手前だ。」千葉は静かに言いながら、ルンバをじっと見守った。「だが、もしそれを完全に理解した時、すぐにすべてがバレてしまうことになる。その時は、即刻ジ・エンドだ。」
慶一はその言葉に身が震えた。バレたら即刻ジ・エンド――千葉が語るその言葉には、確かに何か恐ろしい真実が込められているような気がした。彼はすでに、自分の母親が関わっていた実験が、常識を超えた危険な領域に踏み込んでいることを感じ取っていた。
「バレるって、どういう意味ですか?」慶一は息を呑んだ。「一体、誰がそれを見ているんですか?」
千葉は静かに目を細め、慶一に一歩近づいた。「君が母親の研究を完全に理解し、その真実に辿り着いた瞬間、その情報が外部に漏れれば、すべてが終わる。君だけでなく、君の周りの人間、君自身、そして君の未来まで――すべてが消えることになる。」
慶一はその言葉の重さに、再び息を呑んだ。母親の研究がここまで深刻なものだとは思わなかった。実験がもたらす影響が、予想を遥かに超えていることに、彼はようやく気づき始めていた。
「君の母親が関わっていたのは、ただの科学実験や食材の研究ではない。」千葉は冷静に続けた。「あれは、完全にコントロールされ、監視されている世界の中で行われていた。外部に漏れれば、彼女の全ての実験が無駄になり、その背後にいる力がすぐに動き出すことになる。」
慶一はその言葉を理解するのに、時間がかかった。母親の研究が、単なる学問的な興味ではなく、何か巨大な力に結びついていたのだ。誰かがそれを監視し、コントロールしていた――その事実に、慶一は震えるような感覚を覚えた。
「君の母親が進めていた研究の内容が外部に漏れれば、それに関わるすべての人物が“消される”可能性が高い。」千葉は続けた。「君も、その一人だ。」
慶一は頭の中が真っ白になった。消される――それは比喩ではなく、文字通りの意味だった。彼の母親が関わっていた研究が、どれほど危険なものであるか、その影響力を理解するにつれて、慶一の足元は揺らぎ始めた。
「だから、君が今感じている不安や恐怖は、単なる勘違いではない。君の母親が追い求めていたのは、科学的な成果だけでなく、その研究が社会に与える影響をも掌握することだった。」千葉は無表情で言った。「君がその研究に足を踏み入れた時点で、君はもはや無関係ではいられない。」
慶一は、自分の内側で何かが崩れていくのを感じた。母親が目指していた「新しい社会」、そしてそれに関わるすべての研究――それがどれほど危険で、恐ろしいものであったのかを、ようやく彼は理解しつつあった。だが、その理解が深まるほど、彼にはその重圧を背負うことができるのか、という不安が増していった。
「それでも、君にはまだ時間がある。」千葉は冷静に言った。「君がここで足を止め、全てを理解しない限り、君はまだギリギリ逃げることができる。」
慶一はその言葉に耳を傾けながら、内心で葛藤していた。もし本当に母親の研究を全て理解し、その全貌を明らかにしてしまったら、自分自身が消される――そのリスクを背負うことができるのか。
だが、一方で、母親が追い求めていた真実に近づくことこそが、彼の運命を切り開く唯一の方法でもあるように感じていた。千葉の言う「バレたら即刻ジ・エンド」という警告が現実のものだとすれば、その覚悟を持って進むしかないのかもしれない。
慶一はゆっくりと深呼吸をし、目を閉じた。心の中で決意を固める。
「覚悟を決めなければ。」彼はつぶやいた。「全てを知る覚悟を。」
その時、ルンバが静かに部屋を掃除している音が響き、慶一は自分の中で何かが変わるのを感じた。彼の未来、そして母親の残したものが、今、決定的に動き出そうとしていた。
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(続く)
バレたら即刻ジ・エンド! 鷹山トシキ @1982
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