第3話
第十二章:タリウムの毒
慶一は、男との会話の後、家に帰る途中でもう一つのファイルを手にしていた。そのファイルの中身には、彼が今後取るべき行動と、それに必要な資料がまとめられていた。だが、最も目を引いたのは、「タリウム」という言葉が記されていたページだった。
「タリウム?」慶一は眉をひそめながら、その言葉の意味を考えた。タリウム――それは、化学的には非常に危険な物質であり、かつては無色無味であるため、毒殺にも使われていた毒薬として知られていた。特に、暗殺や秘密の取引に関わる者たちが使うことが多かった。
慶一は、ページをさらにめくりながら、タリウムに関する記述を読み進めた。それによると、この毒は非常に微量であっても人体に致命的な影響を与え、体内に蓄積されるため、発症するまでの時間が非常に長いという特徴があった。しかも、タリウムを使用した場合、外部からは死因を特定するのが非常に難しいため、完璧に「事故」や「自然死」として処理できる。
そして、驚くべきことに、このタリウムは、彼が調査していた悪徳商法の背後にある「組織」の中で頻繁に使われている道具だというのだ。
慶一は背筋に冷たい汗を感じた。タリウム……この物質が暗躍しているとは、これまで考えもしなかった。だが、男が言っていた通り、この組織は表向きの企業活動を装いながら、裏では国家や経済を操る影の存在だった。そして、その手段として、タリウムが頻繁に使われていることが分かってきた。
この事実を知ってしまった以上、慶一はもはや逃げることができない。もしこの情報が漏れれば、自分自身も命を狙われる立場になるだろう。だが、それでも彼は動かねばならなかった。この毒が使われているという事実を暴かなくてはならない。それが、彼が今抱える「秘密」を解決するための唯一の方法であり、彼自身と周りの人々を守るための手段でもあった。
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第十三章:裏切りと陰謀
慶一は再び男と会う約束をした。男から与えられたファイルに従い、次のステップに進まなければならない。しかし、彼の心の中では、次第に疑念が膨らんでいった。あの男が本当に信頼できる人物なのか? 彼は果たして、慶一を利用するためにこの危険なゲームに巻き込んでいるだけではないのか?
その晩、慶一は指定された場所に向かった。場所は、都心から少し外れた古びたビルの地下にある秘密の会議室だった。慶一はエレベーターを降り、薄暗い廊下を歩く。周囲にはほとんど音がなく、冷たい空気が漂っていた。
会議室に到着すると、そこには男が待っていた。男は、彼が先ほど受け取ったファイルを見ながら何かを考えている様子だった。
「進んだか?」男は慶一を見上げ、静かに尋ねた。
慶一はためらいながらも答えた。「タリウムについて調べました。確かに、この毒が組織の手に渡っている証拠はあります。しかし、私はあなたが本当に信頼できるのか疑問に思っています。あなたの目的は何ですか?」
男はしばらく黙っていたが、やがてその目を慶一に向けて、ゆっくりと答えた。「君はもう、後戻りできないところに来ている。タリウムが使われているという情報は、すでに上層部に知られている。この組織がどれだけ深く根を張っているか、君はまだ理解していない。」
慶一は一歩引いた。「上層部? それは誰のことですか? あなたは何者なんです?」
男は冷徹な目で慶一を見つめた。「私は、このゲームの裏方だ。そして、君も裏方になることを選んだ。それを理解しておけ。私たちの動きが表に出れば、すべてが崩れ、無数の人間が死ぬことになる。それを防ぐために、君にはタリウムの使い方を学んでもらわなければならない。」
慶一はその言葉に動揺を隠せなかった。タリウムの使い方を学ぶ? それは、どういう意味なのか?
男は続けた。「君が手にした情報は、もはや単なる情報収集に留まらない。君はこの秘密を暴くために、さらに一歩踏み込む必要がある。そして、タリウムを使いこなすことがその鍵となる。」
慶一はその瞬間、自分が恐ろしいゲームの中に引き込まれていったことを実感した。タリウムの使い方を学ぶことが、すなわち人命を奪うことに直結する。その時、慶一は本当に裏方として生き残ることができるのか、自分に問いかけた。
「君には覚悟があるか?」男が冷たく尋ねた。
慶一は答えを出すことができなかった。自分が選んだ道が、これからどうなるのか、彼には予想がつかない。それでも、今はただ一つのことを思い出していた。
「バレたら即刻ジ・エンド。」
その言葉が、彼をさらに深い闇へと引き込んでいく。タリウムが、彼にとっての最後の試練となるのか、それとも……
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(続く)
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