第3話 子育て開始、そして親と子②
ロアスが急に殴りかかって来たのでシンヤは驚いていた。
だがそれ以上に驚いたことがあった、それはロアスが今まで見せたことがない怒りの表情をしていたのだ。
そのことはレンも同じように驚いていた。
そしてロアスは怒りの表情のままシンヤへさらに殴りかかった。
だが……。
ブン!(サッ)
ブン!(サッ)
……
しばらく殴りかかるロアスに、避け続けるシンヤ。
子供のだだを捏ねるような拳では当たるはずがないし当たるつもりがシンヤにはなかった。
もちろんロアスの拳はシンヤに一度もかすることはない、それほどの差があるにもかかわらずロアスはシンヤに拳を振り続けていた。
その顔は徐々に怒りはなくなり、そして泣きそうに変わっていったのだった。
そしてロアスが想いを話始めた。
「父ちゃん…父様…二人は幼かった僕を大切に…育ててくれました。
その気持ち…は毎日感じています。
二人の子じゃないと…言われても悲しみはそれほどな…かったです。
それ以上…に愛情を与えてくれ…ていたからです。」
言葉が途切れ途切れになりながらも気持ちを語るロアス。
ロアスはいつの間にか涙を流していたのだった。
そしてロアスの気持ちを黙って聞いてるシンヤとレン。
ロアスは語ってる最中もシンヤに殴り続けてはいた。
だがその拳からはだんだんと勢いはなくなっているのだった。
「父ちゃんは言ってくれました。
ロアは何が…あっても俺たちの子だ…血の繋がりなんか気にするなと!
血の繋がり何かより一緒に…過ごした時間が俺たちの大事な繋が…りだと!」
ブン!(サッ)
ブン!(サッ)
ブン!(サッ)
……
「父様は言ってくれました。
ロアと過ごす…時間は何よりも大…切な時間ですのでありのまま…のロアでずっといて下さい。
ロアとの毎…日が私の癒しとなる大事な一時です…と!」
ブン!(サッ)
ブン!(サッ)
ブン!(サッ)
……
「二人は僕の大…事な家族です。
ボクは二人以外は知りま…せん。
僕には二人…しかいないんです。
そんな二人と…。」
そしてロアスは、
「少しでも近づ…きたくて…、
そして…大好きで憧れでも…ある!!
二人の子供だと胸張って言いたいじゃないですかーーーーーーーー!!!!!」
ドガッ!!!
初めてロアスの拳がシンヤに当たった。
拳が当たり一番驚いたのは当てた本人ロアスだった。
「当たっ…た?」
訓練では一度たりとも当たったことがないシンヤにロアスは拳を当てたのだ。
避けきれなかったかとロアスは考えたがその考えはすぐに無くした。
今のパンチはいつもより大振りでただ思いっきり振りかぶっただけのものだったからだ。
そしてシンヤは避けきれなかったわけではない、ロアスの叫びながらの想いがこもったこの拳は避けなかったのだ。
この拳は避けてはいけない、大事な子が初めて気持ちをぶつけたのだから俺が受け止めなくてはいけないと。
シンヤはここ数年のことを思い出していた。
訓練を始めたとき一切泣き言も言わずにつらい訓練にもずっと言われた通りにこなしていた。
《大丈夫だからどんどんやって父ちゃん!僕父ちゃんの技をいっぱい覚えたいんだ!》
と、言ったのを昨日ことのように覚えている。
その時シンヤは最初、
(何て可愛いことを言う子だ!)
と、思ったが目を見たときに本気だと何故か確信をした。
もしかしたらロアスは技を覚えなかったらシンヤとレンに捨てられると考えたのかと懸念した。
その後はどこか気持ちを抑えて訓練をしているのは気づいてはいた。
いつもわがままを言わずどこか一歩下がっているように思えてシンヤは懸念から確信になった。
ならシンヤに出来ることはそのことに気づかないフリをして技を教えることではないかと、そうすればいつか俺たちの愛情に気づいてくれると考えずっと訓練してきた。
だがそれはシンヤの勘違いだったのだ……。
そしてレンもシンヤと同じようにロアスの言葉を聞きここ数年のことを思い出していた。
魔法の訓練している時にロアスは一般魔法よりレンの魔法の方を訓練したがった。
だがレンの魔法は独創魔法。
レンのオリジナル魔法の為教えることが出来ない。
というよりレン以外に使うことが出来ないのだ、だがロアスは言った。
《父様の魔法はとっても綺麗ですよね!僕も絶対使えるようになってみせます!》
と、言ったのを昨日ことのように覚えている。
その時レンは最初、
(何て可愛いことを言う子だ!)
と、思ったが目を見たときに本気だとレンもシンヤと同じように何故か確信をした。
それからというのも毎日訓練でレンの魔法を真似して続けた。
一般魔法は出来ても独創魔法は特殊魔法のうえレンだけの魔法だ。
少しの真似でも出来るはずがないし、すぐに魔力が暴走してしまうのだ。
だが暴走し爆発する前にレンが抑えているので毎回事なきを得ていた。
レンがいない時の自主練では度々暴発しているようだが得には大きい怪我もないようだったが、それでも心配で何度も注意してはいたのだが、レンはその内ロアスが諦めてくれると思って見守ることにした。
だが内心では自分の育て方は間違えているのかと不安もありまたロアスが何か悩みを持っているように感じていたのもあったのだ。
いつかきっとこの一時にどれだけの愛情を注いだかを気付いてくれると思っていた。
だがレンもまた勘違いをしていたのだった。
――――――――
急に動かなくなり考え込んでいるシンヤをロアスは不思議そうに見ていた。
ずっと感情に任せて殴りかかっていたロアスはシンヤの変化を見て少し冷静になっていたのだ。
そしてレンの方を見たらレンもまた考え込んでいるようだった。
シンヤの方に目を戻すとロアスは驚いた。
何故ならシンヤが今まで一度も見たことがない涙を流していたのだから。
「ロアス…すまん……。
本当に…すまねぇ………。」
「え? え?」
急に謝られたロアスは混乱していたし驚きがあったが、何よりもシンヤが謝っていたことより涙を見たのが一番大きかった。
今まで一度足りともみたことがない涙、大好きで憧れでもある絶対な人が涙を見せたからだ。
物心付いた時から今まで笑顔以外の顔は見たことがなかったからだ。
心配な顔や特訓中の顔等を除けば毎日笑顔のシンヤが涙を見せた、それだけの衝撃からかロアスは呆けるしかなかったのだ。
そして、
ギュ…。
どこまでも優しくそれでいてロアスをどれだけ大事にしているかを表すようにシンヤは力強く抱きしめたのだった。
「お前の気持ちをわかってやれてなくてすまねぇ…。
俺はお前が訓練をやってるのは捨てられると思っているからって考えていたんだ……。
だけど違った…違ったんだよな……。」
泣きながら謝るシンヤに呆けるしか出来ないロアス。
そしてロアスはどうしたらいいのかわからずにレンの方に視線を向けた。
するとレンもまた涙を流していたのだった。
レンの涙も一度も見たことないロアスはさらに混乱した。
シンヤがさらに話を続けた、
「ロアス…お前はただ俺たちとの繋がりが欲し…かったんだな…。
血は…繋がってなく…ても確かな繋がりがそれが俺たちの技術や魔法ってことだったん…だよな?
俺は正直…気持ちだけで大丈夫だと思ってたんだ。
気持ちを毎日伝えれば大丈夫って。
でもロアスは違った。
ちゃんと俺たちに育ててもらったっていう気持ちじゃなくて形が欲しかった…」
泣きながら伝えるシンヤの言葉を一字一句逃さないように聞いていたロアスはシンヤが言ってることを理解するといつの間にか涙を流しているのだった。
ロアスの憧れでもあるシンヤからの言葉は心に響いていた。
自分は二人の本当の子供ではないが愛情はずっと与えてくれるのはわかっていた。
それはとても感謝してもしきれないものである。
では自分はこの二人に何を返せるのだろうか?
どうやって恩返しをしたらいいのか?
そうやって考えているとふとあることを思い出したのだ、まだ小さな頃に二人が夜中に話をしている時に偶然聞いた言葉、
【「あぁ、普通の子供だったよ。
俺の技術やお前の魔法とかも覚えるのは無理だ。
ただ、特別な才能はないが普通の魔法と体術はそこそこ使えるだろうがな。」
「そうですか…
我々とは違いロアはこちらの世界の住人。
残念ですけどそれが普通ですね。」】
そんなことを言っていたのを思い出したのだ。
自分には才能はないとどこか寂しそうに言っていたような感じがしていた。
じゃあもしも才能がなくても二人の技術や魔法を使えるようになれば二人は喜んでくれるのではないかと小さなロアスは考えたのだ。
その考えになったときロアスは必死になって二人の力を覚えようとした。
だが現実は違ったのだ。
いくら頑張っても出来ないことは出来なかったやろうとしたら身体がついていかなかった。
幾度となく繰り返した努力も無駄かと思ったのだ、そして二人に絶望させてしまってるんじゃないかと何度も考えた。
だが二人はいつも優しく見守ってくれた。
どんなに失敗しても出来なくても本当に毎日ロアスに愛情を与えてくれていたのだ。
ロアスはそんな二人の愛情を貰うたびにやはり二人に恩返しとしてそして二人の愛情はちゃんとロアスの中にあると目に見える確かなもので伝えたかったのだ。
その目的の為に最近では自分でも暴走気味だったのは自覚していた、それでも早く二人に伝えたかったのだ。
そして今その度重なる暴走の結果が出た。
二人に怒られたのだ。
でもその後のシンヤの言葉でロアス自身がかなり驚くほどの怒りが出ていた。
いや怒りよりも悲しみが強かったのかもしれない。
自分の暴走のせいでシンヤに言って欲しくないことを言わせてしまったのだから…。
そして今まで溜め込んでいた気持ちが爆発してしまったのだ。
どれだけ二人に感謝しているかどれだけ憧れていてるのかそしてどれだけ二人のことを想っているかを。
気持ちをぶつけてしばらくしシンヤの涙とそして言葉で自分の気持ちを受け止めたてくれたんだと感じた、そう思うと涙が止まらなかった。
今も抱き締めてくれてるシンヤからは本当に申し訳なさとロアスをどれだけ大事にしているかをしっかり感じた。
そしてふと気付くとすぐ側にレンがいることに気が付いた。
「シンヤ…あなただけズルいですよ…。
私にもロアスを抱き締めさせて下さい。」
「あっ…?
一緒に抱き締めたらいいだろうが?」
「誰があなたごとロアスを抱き締めたがりますか?
私はロアスだけを抱き締めたいのです。」
「仕方ねぇな…。」
そんな二人のやり取りを見ていたロアスはポカンとして見ていた。
二人の目にはまだ涙が流れている。
ガバッ!!
そしてシンヤがロアスを離した瞬間レンがすぐに抱き締めてきた。
シンヤとは違い荒々しかったそして力強くレンはロアスを抱き締めてきた。
「ロアス…。
本当にすみません……。」
「えっ?!
とうさま?!!
どうして謝るのですか?!」
ロアスはまたまた混乱した。
レンが泣きながら謝ってきたのだ。
シンヤの時も驚いたがこちらも驚いた。
「ロアス…。
あなたは私の独創魔法を覚えようと毎日必死にやってきました。
普通の魔法でも覚えるのは大変なのにです。
正直最初はいつか諦めるだろうと思ってました。
でもあなたは毎日欠かさずやってましたね?
その理由が私には正直わからなく困惑してました。
でも理由は単純でしたね。
私たちに対しての繋がり…ただそれだけのことでした。
それに気付かなかったとは本当に申し訳ございません。」
レンもまた気持ちを伝えてくれた。
ロアスはとても嬉しくなりまた涙が溢れてしまってた。
「とうさま、とーちゃん……。
ぅっ…ごめんなさい……うっぅ………。
ごめんなさい…ごめんなさい……。」
二人の気持ちを聞き自分の気持ちも伝えたことの安堵からかロアスは泣きながら謝ってきた。
ロアスは二人に対してどこか距離を置いていたのかもしれない。
本当の親とかではなく二人に対して自分が何も出来ないことに悩まされてきたからだ。
だが二人の気持ちを知ったことに自分が二人にどれだけ愛情を注がれていたかを理解した時今までの気持ちが溢れてしまったのだ。
そして三人は本当の親子以上に強い絆を確かに感じているのだった。
ちなみに感極まったシンヤがレンごとロアスに抱き着こうとしてレンの魔法障壁に阻まれてシンヤが悔しがるという出来事もロアスは笑いながら見ていたのだった。
ーーーーーーーーーーーー
三人がお互いの気持ちを伝えたその日の夜、シンヤとレンはロアスに自分達の境遇や何者であるかを話せる範囲で話したのであった。
二人から話を聞いたロアスは、
「父ちゃんと父様が異世界からの転移してきた人だったとは…。
その異世界から来たからあんなにいろいろとすごい力や魔法が使えたんですね。」
「えぇ、その通りです。
だからこそ独創魔法は私しか使えない魔法って言っていたのです。
これは異世界転移の時に得た力ですね。」
「俺の技術も異世界転移の時の力なんだよ。
だからこっちの人より何倍の力と技術があるんだぜ。」
「納得しました…。
でもやっぱり僕は二人の技術や魔法を近づけるのは諦めませんよ!」
それを聞いた二人は、
「アハハハハハ!
本当にロアは嬉しいこと言ってくれるぜ!」
「フフッ、まったくその通りです。
ロア、無理なくやっていきましょうね。」
そしてロアスはいい笑顔で返事をした。
「ハイ!
明日からも頑張ります!」
その三人はどこから見ても家族でした。
三人の気持ちや想いが伝えられたことで血の繋がりより大事な絆が出来たのかもしれません。
「よし!
じゃあロア、そろそろ寝な!」
「はーい。
父ちゃん、父様おやすみなさい!!」
「「おやすみロアス!」」
ロアスは寝室に行きベッドに横になったら今日の疲れからかすぐに寝てしまった。
そしてその寝顔はとてもスッキリしていてとても幸せそうであった。
それはきっと二人に自分の気持ちを伝えたことそして二人の気持ちを知れたことの表れなのかもしれない。
明日からもつらい訓練があるかもしれないが、もう大丈夫。
ロアスにはもう迷いはなかった。
これからの事、先の事すべてが楽しみであった。
そして、ロアスがちゃんと寝ているのを確認した二人はあることのついて話をしていた。
_______________
作者のG.Gです!
家族の絆は人それぞれ今も昔も変わりはないかもしれません。
血が繋がってようが、繋がってなかろうがそれぞれが歩んだ時間は変えようのないことですからね。
どう受け止めるかも人それぞれ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます