第1話 夢の中の出来事2
次の日ー
よし、気合い入れてあの美容院に行こう。すごく緊張するな、、、日焼け止めを肌に塗りながら、彼と会った時のことを想像していた。
その時、一件の着信がきた。
「ごめん、今大丈夫?」
と小学校の友達の胡桃から電話が来た。その電話から険悪な雰囲気を感じる。
「大丈夫だけど、どうしたの?」
約束の時間が迫っているからと、少し催促させるような言い方をしてしまった。
「いや、あ、ごめん。忙しいのに。」
と困った声でそう言いながら、言葉詰まらせて何か言おうとしてくる。
電話をスピーカーにしながら、話を聞いているが、そろそろ家を出なくちゃいけない。
そう思い、
「私ももう時間だから」
と言いかけ、電話切ろうとしたら
震えた声で
『今日、妹が死んじゃった』
え。嘘。
私は胡桃の妹とも仲が良くて、一緒に遊ぶことがよくあった。でも急に。どうして。分かんない。状況が掴めない。
言葉を失ってたその時、
「でも薄々気づいてたんだよね。もう少ししたら私の妹が死ぬってことを。」
と、啜り泣く声で私に話しかけてきた。
私は困惑しながらも、慰める言葉を手当たり
次第探していた。
「今思うと辻褄が合うんだ。妹の陰で泣くお母さん。そして、時が経つにつれ元気が無くなる妹。私が知らない間に病気にかかってた事を
なんで、なんで、、!誰も何も私に言ってくれれなかったの。言ってくれたらもっと優しくしたのに。もっと一緒にやりたいこともたくさんあったのに、、、薄々気づいていながらも見て見ぬふりをしてたのも最低じゃん。私。出来損ないの姉でごめん、ごめんね」
電話越しでも伝わる悲しみに混じる苦しみ怒り憎悪。
「そうだよね、大変だったね、辛いね」
こんな時に慰めるべき良い言葉が出てこない。どう慰めるべきか分からなかったが、私なりに一生懸命慰めた。
電話を終えた後、私は急いで昨日の場所に向かった。
こんなことになるなら彼に連絡先でも聞いておけばよかった。
全速力で自転車を漕ぐ。
息を切らしながら、ただただ、無我夢中で自転車を漕ぐ。
昨日行った場所の美容院に着いたが、
そこには彼の姿はなかった。
なんなら店もやってなかった。店の点灯もなく辺りも暗くなっていて、とても不気味だ。
ただ呆然と立ち尽くしていると、ある老人が私に話しかけてきた。
「今日、その店やってないんじゃ。」
一瞬、耳を疑った。
いや、でも昨日確かに明日もここにいるからって、、
え、私、彼に嘘つかれた、?
そんな、、、
もしかして、会う事自体めんどくさかったから遠回しに断ったの。
疑心暗鬼になって、最悪な状況しか頭に出てこない。
脳内での処理が追いつかない。
「な、なんで、きょ、う、この、みせやってな、いんですか?」
言葉詰まらせながら、老人に問いた。
すると、老人がゆっくりと
「お主、何も知らないんじゃな。この店は昨日の夜、ここで従業員の若い男の死亡事故があったんじゃよ。それはもう超がつくほどのべっぴんな男でな。みんなから慕われたいんじゃ。今どき、死亡事故なんて悍ましいのぉ。」
そう言った。
目の前が見えない。霞んで見える。昨日しか会ったこと無かったけど、こんな呆気なく終わるなんて。
まだなんも話してないよ、
まだ沢山話したいことあるよ、
名前はなんなのか、
父とはどういう関係だったのか。
今彼女はいるのか、
なんで私の事可愛いって言ってくれたのか。
まだ何も聞けてないよ
まだ何も始まってないよ
その店を後にするように、とりあえず無我夢中で走った。
もうこの世にはいないと知りながらまだ名も知らない彼の姿を探してる。
昨日まで、生きてたじゃん。私に微笑んでくれててたじゃん。手も足も口も全部、全部、動いてたじゃん。
なのに、どうして、
心に穴が空いたような虚無感が私を襲ってくる。さっき、聞いた友達の妹の死とは別の何かの感情が私の心を蝕む。
痛い。苦しい。
全然違う。
確かに同じ死だけど、全然違うの。
おかしい。おかしいよね。
友達の妹の方がたくさん色んな事知ってるし、一緒に居た時間も明らかに多い。
なのに、なんで、あの男の笑顔が脳内にへばりついて離れないの。
友達の妹の死を聞いた時は唖然としてて、涙も出なかったのに。
なのにどうして、こんなにも涙が止まらないの
誰か嘘って言って。事故なんて起きてないって。まだ生きてるって。
何かの間違いだって、、、
死んだのだって他にいた従業員かもしれないと、何度だって自分にそう言い聞かせた。
彼は死んでないきっとどこかで。
生きてるよね
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