第2話

今、伝説上の存在である悪魔が目の前に…圧倒的な力の差を感じる。

 体中から冷や汗がダラダラと流れ始めた。


「勝てない…っ」


 本能で理解してしまっていた。

 眼の前の存在には勝てないと。



 悪魔の方も戦う価値なしと判断したのか、少年―ルナエル―の家のある南区の方向へ翼を広げ飛び立っていった。



「あっちの方向は…南区――家!?」


 嫌な予感がする、この手の予感はなぜかわからないがよく当たるのだ。

 いかなければ…大切な人の危機を感じる。

 

我ある場所は思う場所テレポート


 ルナエルは南区の家の前に転移する。

 転位酔いが回復し、家に近づくと少年はまたもや立ち尽くし、絶望する。


「父さん…?」


 ルナエルの父であるニクスがいなかったのである。

 神殿に転移する前に視たときは、父さんの魔力はここにあったのだ。だが今はない…


「まさかっ」


 急いで辺りを確認すると、予想は最悪の形となる。

 悪魔による捕縛魔法と父の攻撃魔法の痕跡が残っていた。

 つまり、父は悪魔と戦いに負けて捕まってしまったのだ。


「父さんっ――必ず助けるから。絶対」


 唯一の肉親だ。母はおらず男一人で自分を育ててくれた父だ。

 現在のルナエルにとって、最も大事な存在であった。

 決意と固め唇を噛みていたルナエルの頭の中から突然言葉が響く。


「…ル――…エル――ルナエル―」

「誰だ!?」

「女神、ルナです。力を、貸していただけないでしょうか」

「女神がどうして僕に…?」

 

 当然の疑問。

 女神の存在を信じてはいたが信徒というほどではない。

 なぜ自分に話が来るのか、理解ができなかった。



「私は先程も言ったとおり女神ルナです。それと同時にルナエル、あなたの母でもあります」



「――っ!?僕に母はいないはずだ!」

「ニクスと私が結ばれて、ルナエルを産んだ後、私は天界へと戻らねばなりませんでした。予想以上に神力を失っており、神として存在できなるところだったのです」

「神として存在できなくなったらどうなるんだ」

「人へと転化し、寿命が人と同等になります」


 顔をしかめながらルナエルは叫ぶ。


「死ぬのが怖いわけか。愛する人を遺してでも神として生きていたいわけかっ!それでも母親か!?一人の男を愛した女か!?」

「本当に申し訳ありません。ただ、私は血に縛られています。世界そのものに、生まれてから1000年は世界の秩序を守るという契約を結びました。故に神力を失って契約に背くと、私のみならず、ニクスにまで被害が及んでいたことでしょう」


 女神は顔を歪め、泣いてしまうのを我慢する少女のように不安定な声で言った。


「これが贖罪になるかどうかはわかりませんが、私に神界にいる間にできる限り、最大限の人へ干渉行為の一つである『祝福』を差し上げます。ですから…どうか、ニクスを助けてはいただけないでしょうか」

「わかった。ただ…全て片付いた後は人として、一緒に暮らしてもらえませんか?母さん」


 女神は息を呑み涙をこらえながら頷く。


「はい。ルナエル。世界に交渉して私は人に転化します。――今まであなたのことを見ることしかできませんでした。けれど、愛していますよ。ルナエル」


 そう言って母であった女神の言葉は途切れた。




皆さんこんにちは、白井黒猫です。


 ルナエルの家族のことが明かされました。彼は離れた家族にも家族に愛されていたようです。


――父ニクスはどうなるのでしょうか

それではまたどこかでお会いしましょう――


p.s.

言ったでしょう?世界は愛に満ち溢れていると

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