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動画をもらっておいて良かった。
これがなければ、絶え間なく湧いてくる飢えを凌げなかっただろう。
「律、何観てんの~」
「あ、勝手に見るなよ」
「若いね、学生?」
「…………」
「えー、めっちゃ怒ってるじゃん。なんでよ、ごめんって」
たまたま雑誌の撮影が重なった響に画面を見られてしまうこともあったりしたけど。睨みつければ離れていったから、まあ良しとする。
いつしかその動画は誰にも共有したくない、俺の宝物になっていた。
君に会える収録日は待ち遠しいはずなのに、世間に見つかってみんなのものになってしまうのは嫌だと思う。
会えない日々に募っていく思いは、日毎に独占欲や執着も絡んでいく。
俺だけを見て、俺の曲だけを歌ってほしい。俺の全てをあげるから、君の全てが欲しい。
彼の爽やかな歌声に似つかわしくない、どろどろに溶かされた執着を抱いていることがバレたら逃げられてしまうかな。かといって抑えようのない感情は、もう今更どうすることもできなくて手遅れなんだけど。
二十五年生きてきて、初めて出会った唯一無二。
君に出会って、モノクロだった景色が色鮮やかなものに変わった。
ずっと、夢を見ていた。
君に恋をするまで、それは叶わないものだと思っていた。
きっと、君は知らないだろう。
インタビューで『律と一緒に歌いたい』と答える姿を見て、君も俺を望んでくれるのだと歓喜に酔いしれていたことなんて。
芸能人のレッテルを剥がした、ただの東雲律という人間を見てほしかった君に、神さま扱いされて傷ついたことなんて。
君は絶対に知らないだろう。
……でも、別にそれでいいんだ。
君が俺のファンになったきっかけ。
俺が君に恋をしたきっかけ。
実はふたりとも一目惚れでそっくりなんだよ、なんて。
そんな過去の話は、今、俺の隣にいてくれるなら君は知らなくていいんだ。
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