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 「田島さん、この映像って……」

 「今度オーディション番組をやるんだけど、それに応募してきたんだよ。でも一曲フルでっていう決まりでね、僕としては通過させてあげたいんけど……。扱いに悩んでるところなんだ」



 新たな人材の発掘に目がない楠木さんが仕事人の目を光らせながら尋ねると、うーんと唸りながら田島さんが答えた。



 「通過、させるべきだと思います」

 「東雲くんもそう思う?」

 「はい」



 君のことをもっと知りたいのに、ここで落とされてしまっては困る。本当はこういうことに口を挟みたくないけれど、今回ばかりは私情を優先させてほしい。

 

 そう思って口を開けば、田島さんと楠木さんが驚いたようにこちらを見る。俺が通過と提案するのはふたりとも予想外だったらしい。



 「東雲くんのお墨付きなら通過させてもいいかな、うん。審査員の方も説得してみるよ、ありがとう」

 「……審査員?」

 「JTOだからね、芸能事務所とか映画監督から審査員を呼ぶ予定なんだよ」



 JTO、開催される度に話題になるオーディション番組だ。その存在はもちろん知っている。


 ルールももちろん大事だけど、それ以上に才能のあるひとを発掘するのがこのオーディション番組の目的なはず。彼ほどの才能を落とす方が番組的にも損だろう。


 だからきっと、彼はうまくいく。

 そう思うとほっとして、小さく笑みが溢れた。



 「もしスケジュールが空いてるなら、東雲くんにも出演してもらえたらいいんだけどね~」

 「収録はいつですか!?」

 「あ、興味ある?」



 思いがけない提案に遠慮なく食いついてしまう。


 告げられた日程を楠木さんが確認すると、雑誌の撮影が午前中に一件だけ入っていた。



 「残念ですが、難しそうですね……」

 「うーん、じゃあ決勝だけのスペシャル審査員とかはどうだろう」

 「それなら時間的には間に合いそうですけど、律さんどうします?」

 「それでいいよ、出演する」



 田島さん的にも俺が出演した方が盛り上がると考えているのだろう。そんな妥協案を出してくれる。


 俺は一目でも君に会えるなら、何だっていい。


 決勝まで勝ち進んでくると信じているから。

 だから、俺は待っている。

 君に会える、そのときを。



 「ねぇ、田島さん。この映像、俺にちょうだい」

 「そんなに気に入った?」

 「うん、ちょっとね」

 「珍しいね。本当は駄目なんだけど東雲くんだしなぁ、今回だけ特別だよ」



 ちょっとだなんて嘯いて、手に入れた二分弱の動画。

 移動時間や休憩時間をはじめ、暇さえあれば何度も何度も繰り返し再生した。


 サイダーのように清涼感のある歌声は、耳馴染みがいい。うまくいかないときも、彼の声を聴けばスイッチを切り替えられた。


 話すときはどんな声をしているのだろう。俺に会ったら、どんな反応をするのだろう。君への興味は日に日に増すばかり。

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