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 芸能界なんて、レンズを通してキラキラなエフェクトをかけているだけ。裏側はそんな綺麗なものじゃない。


 人間の汚い部分を嫌という程、目にしてきた。いろんなことを諦めて、たくさんのことに失望した。


 好感度の高さが評判の芸能人が、裏では態度が悪くてスタッフをこき使っていることだってザラにある。


 逃げ出したくなることは度々あった。

 だけど、それが出来なかったのはここまで育ててくれた母親への恩返しのため。それだけが芸能活動を続ける唯一の理由だった。


 数年もすれば感覚は麻痺するもので、いつからか心を動かすことが煩わしくなっていた。


 喜びも悲しみも、感情全てが邪魔なもの。どれも芸能界でやっていくには不要だ。


 まだ純粋だった頃の俺はどんどん作り笑いが上手くなることに心が削られていたのに、今となってはどうやって心から笑っていたのかさえ分からない。


 カメラに映し出されたそこに、本当の東雲律は存在しない。大衆に求められた作りものの彼は本音を隠して、完璧な東雲律を演じることしかできない。


 そんな日がこれからもずっと続くと思うと、全てを投げ出してしまいたくなった。



 俺って何なんだろう。

 一体、誰がただのひとりの人間として扱ってくれるのだろう。

 

 そんな疑問が浮かんでも答えは一切出てこなくて、暗闇に取り残された気分になる。


 はじめは暗闇に囚われないように独りでもがいていたけれど、足掻くことさえ諦めてしまった。これって、見世物小屋の生き物たちと何が違うのだろう。



 ……俺の幸せって、どこにあるの?

 

 恵まれた環境にいることは分かっている。この立場が望んでも簡単に手に入れられるものではないことも理解していた。

 

 だけど、寂しかった。

 俺はずっと、独りだった。



 そんな俺が一瞬で虜になった。

 目が離せない。彼のことを教えて。


 小さな画面に映し出された彼は、俺とは違って純粋で、眩しくて綺麗だった。


 心が感じて動く、感動ってこういうことだったと思い出す。


 あたたかな春が来て雪が溶けていくような、そんな春の陽だまりを感じる。


 真っ暗闇に一筋の光が射し込むのが見えた気がした。



 君の名前は? 好きな人はいるの?

 どうして俺の曲を選んだの?


 もしかして、俺のファンかな。

 そうだったらいいな。


 次々に彼に対する興味が湧いてきて、止まることを知らない。


 君の笑う顔が見たい。

 俺の名前を呼んで、まっすぐに見つめてほしい。

 君のことなんて何も知らないのに、そんなことを望んでしまう。

 

 胸の奥が軋む音がした。

 心を無くして数年、久しぶりに気分が高揚した。


 こんな気持ちは初めてだ。

 思えば誰かにちゃんと恋をした経験がなかったから、その時はよく分からなかったけれど。


 ずっと探していた宝物を見つけたみたいに心が踊る。惹き付けられて、たまらない。


 じんわりと氷が溶かされるみたいに胸の奥がぽかぽかと暖かくなる。

 

 一目惚れって、こういうことをいうのかな。

 きっと、このときから俺は君を――……。

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