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それから数日後、律のマネージャー・楠木さんから連絡が入った。律さんに早く早くと急かされているので、最短で予定のない日を教えてほしいとのこと。
授業が午前中で終わり、バイトも入っていない日を伝えると、ちょうどスタジオでの撮影があるそうだ。
律をスタジオまで送り届けた後、途中から合流する形にはなるが、大学まで迎えに来てくれるらしい。
電車に乗ってスタジオに向かうのも道に迷いそうだったので、その申し出は有難かった。だけど律のマネージャーなのに、僕なんかのために動いてもらうのは申し訳ない。
一度断りの連絡を入れると、すぐに電話がかかってきた。開口一番に「そんなことをさせたら、俺が律さんに叱られます」と暗い声で言われてしまっては断るのも忍びなくて、渋々大学を教えることになった。
だって、あのまま断ったらタクシー代として必要以上に諭吉を何人も渡されそうだった。そっちの方がいろんな罪悪感と戦う羽目になっただろう。
そして、その日はやってきた。
子どもの頃、学校の行事の前日になるとワクワクして眠れなくなったことがあったっけ。
僕は足りていない睡眠時間を大学の授業中に補いながら、約束の時間が近づくにつれ、緊張で死にそうになっていた。
「今から地獄にでも行くの?」
「……そうかもしれない」
奏の冗談に真顔で頷けば、呆れた視線が返ってくる。
「はぁ、お前がそうなるのはどうせ律だろ」
「…………」
「ま、死なない程度にしとけよ」
さすがは幼馴染。何でもお見通しだ。
何も言えない僕を責めるわけでもなく、そっと肩を叩いて次の授業が行われる教室に向かう後ろ姿がかっこよく見えた。
いつの間にあんなに大人びてしまったのだろう。僕だけがずっと子どものまま、取り残されているみたい。
周りは就活について調べ始めているのに、未だに自分のやりたい職業だって決まっていない。
不安が胸を刺す。
じんわりと広がる得体の知れない恐怖には、気づかないフリをすることしかできない。
次の授業を受ける生徒が続々とやってくる。その波に逆らって、僕は焦燥感から逃れるように足を動かした。
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