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 『わかってるでしょ、あれは紡のことだよ』

 「…………」

 『紡ってチワワに似てるよね』

 「……似てないよ」



 チワワだなんて初めて言われた。

 きっぱりと否定すれば、律がそうかなぁと呟いた。



 『テレビだからチワワって誤魔化したけど、紡が俺の好きな人であることに変わりはないよ』

 「ッ!」



 自惚れでも何でもなく、やっぱり僕のことだった。恥ずかしげもなく、まっすぐに言われたら誰だって照れるはず。


 ぐっと言葉に詰まるけれど、あんなことを何度も繰り返されたら律のファンも不安が募るだろう。ファンの子が悲しむ姿は、同志として見たくない。



 「……ああいうのはやめてください」

 『大丈夫だよ』

 「でも、」

 『これぐらいで俺は揺らがない』



 はっきりと、そう言い切るところがかっこいいと思ってしまった。我ながらちょろいことは理解している。


 そもそも、神さまには僕なんかの心配なんて不要だったんだ。そりゃあそうだろうと、冷静になればわかるのに。馬鹿なのは僕の方だった。知り合いになれたからって、調子に乗りすぎだ。



 『紡?』

 「……はい」

 『心配してくれたんだよね、ありがとう』

 「…………」

 『でも、紡が嫌ならもうしない。既に答えちゃったものは今から変えられないけど、約束する』



 どうしてここまで寄り添ってくれるのだろう。ほんの小さな感情の変化さえ、見透かされている気がする。


 神さまなのだから周りなんて気にせず、もっと横柄に、自分のやりたいようにすればいいのに。


 そんな態度を取られたら、僕は許されるんじゃないかって勘違いしちゃう。優しくしないでほしい。



 『代わりにひとつだけ、ワガママを言ってもいい?』

 「わがまま?」

 『……紡に会いたい』



 少しの沈黙の後、どろどろに溶かしたキャラメルみたいに甘ったるい声で囁かれると、思考が停止する。

 

 好きな人に会いたいと言われて、喜ばないひとがいるだろうか。ドキドキとうるさい心臓の音が、電話の向こう側に聞こえてしまいそう。



 「今、忙しい時期なんじゃ……」

 『ん、だから会いに来てよ』

 「え?」



 遠回しに断ろうとすれば、そうはさせないと言わんばかりに律が提案する。全く思ってもいなかった言葉に面食らってしまった。


 一呼吸置いて考えた結果、律は連日のハードスケジュールで疲労が溜まり、そのせいで変なことを言い出しているんじゃないかという疑惑を抱いてしまう。だって、僕なんかと会うメリットなんてないんだもの。

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