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一軒目は、今流行りのお洒落な居酒屋。
律のデビューのきっかけや曲作りについてなど、ファンならこれまで何度か聞いたことのある内容が話題に上がった。
新しい情報はなしか、と少し残念に思っていると、二軒目に移動するらしい。
お酒が回ったのか、少し顔が赤くなっている。こんな律は初めて見る。かわいい。
隠れ家的なひっそりとした居酒屋を貸し切った状態でトークが再開する。顔を真っ赤にして上機嫌な芸人が脈略もなく、ぶっこんだ。
『東雲は何か浮いた話とかないんか?』
『おいおい、アイドルになんちゅうこと聞いてんねん』
慌ててツッコミ担当がフォローに回るが、酔っ払いは止まらない。
『ええやないか、なぁ?』
『ふふ、そうですね、実は好きな子がいるんです』
おお! と食いつく芸人さん。
対照的に「これ大丈夫か?」とざわつくスタッフさん。
まさか、と背筋が凍る僕。
『それ、テレビでしていい話なんか?』
『先日、フラれたので……』
『へぇ、東雲でもフラれることあるんやなぁ』
ツッコミ担当だからといって、酔っ払いふたりを相手にするのは大変らしい。もう止まらないと判断したのか、話題に乗っかってしまっている。
誰も止めるひとがいない。
僕は頭を抱えながらも、観ることを止められなかった。
『フラれたからいっそ開き直って、周りからじわじわ囲っていこうかなって思ってるんです』
『いや、怖いわ』
『天下のアイドル様にそんな風に思わせるって、相当入れ込んでるんやなぁ』
『多分この番組も観てるので、自分のことだってわかってると思います。ね、君のことだよ』
『テレビ使って脅すなよ』
パシンと頭を叩かれる律。
あははと酔っ払いの三人は楽しそうだが、冷や汗ダラダラなのはスタッフさんと僕。
っていうか、何でこのまま流されてんの?
生放送じゃないしカットするでしょ、普通。
固まる僕を置いて、三人のトークは止まらない。
『その子のどこが好きなんや』
『うーん……声、ですかね』
『やっぱり普段から歌ってるひとは声に惹かれるんやなぁ』
『そうなんですかね。でもしばらく声を聞けてないので、早く会いたいです』
『フラれてんのに?』
『あ、それ禁句ですよ』
『すまんすまん』
平謝りする芸人にくすっと笑った律が、ビールを喉奥に流し込む。映し出された喉仏が男らしくて、ドキッとする。
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