向こう側の景色
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僕のスマホに神さまの連絡先が追加されて、一週間と数日が経った。
律の連絡先なんて国家機密と同レベル、とんでもない危険物だ。流出させたらと思うと怖くて、そんな扱いに困る爆弾のようなものを追加したくないと必死に断ったのだが、あっという間にスマホを取り上げられて勝手に追加されてしまった。
その時の「何か文句でも?」と言いたげな顔が忘れられない。
律は意外と頑固で、強引だ。だけどそんな一面を知ってもきゅんとしてしまうのだから、この恋はほんと重症だ。
連絡先の一覧に『神さま』がいることを確認しては何度もニヤけていること。スマホがぴこんと通知を知らせる度に、もしかしてと淡い期待を抱いてしまうこと。きっと、この先も律は知らないままだ。
だけど、それでいい。友達とは言ったものの、長続きするとは思ってない。僕に興味がなくなって、そのままフェードアウトすれば、アイドルとオタク、以前と同じ当たり前の関係に戻れるから。
……なんて、律が忙しくしているのを分かっていてそんなことを考えてしまうのだから、僕は性格が悪い。
来月の頭に新曲のリリースを控えているため、テレビや雑誌で律の露出が増えていて、ファンとしては供給量の増加がとてもありがたいのだけど。
僕に構っている時間があるなら、その間は休めばいいのに。
律から届いたメッセージを見返しながら、そんな可愛げのないことを考えてしまう。
……ああ、もう、だめだめ。
せっかく律が深夜のバラエティに出演するんだ。一週間前からずっと楽しみにしていただろう。
いろいろと考え込んでしまって番組を素直に楽しめないのはもったいない。僕はスマホをベッドに置いて、テレビをつけた。
今宵律が出演する『サシトーク!』は、ベテランのコンビ芸人とゲストが居酒屋で飲みながらまったりと会話をする番組だ。
あまりプライベートなことを話さないことで有名だったから、トーク番組に出ると知ったときは驚いた。だけど、オタクとしてはすっごく助かる。ありがとう、サシトーク!
更にこの番組だと律がお酒を飲む姿まで拝めるのだ。なんて素晴らしい番組、出演すると決めた律に乾杯。
おっと、僕もお酒を用意しよう。
冷蔵庫で冷やしておいた缶チューハイを持ってくれば、ちょうど番組が始まった。
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