決定権は僕にない

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 番組の収録はあっという間に時間が過ぎてしまった。いつも観ていた番組の裏でスタッフさんがスムーズに進行できるように、カメラ割りだったり進行だったり、どれだけ工夫しているのかが分かって圧倒された。


 みんな一生懸命で楽しそうで、出演者だけじゃなくスタッフさんも含めて全員がキラキラして見えた。


 僕もあそこに混ざってみたい、ほんの少しだけそんな気持ちが芽生えた気がする。



 「見学して、デビューしたいって気持ちは湧いてきた?」

 「……ごめんなさい、正直まだわからないです」



 だけど、自分があそこに立ってスポットライトに照らされる姿が想像できない。僕は絶対に裏方の方が向いているし、厳しい競争社会の中でやっていけるという自信もない。


 曖昧に答えを濁せば、田島さんは僕がそう答えると分かっていたのか、柔らかく笑みを零した。



 「うん、そうだと思った。まあ、返事は急いでないし、僕宛でも名刺の連絡先でもいいから何かあったら連絡ちょうだい」

 「はい」



 意思を尊重してくれて、ありがたい。

 僕が応募したわけではないけど、オーディション番組に出演しておいてどういうことだって責められてもおかしくなかったと思う。



 「収録も終わったし、下まで見送るよ」

 「田島さん、すみません、ちょっと急ぎなんですけど……」



 スタジオを出ようとしたところで、田島さんが深刻そうな表情をしたスタッフさんに声をかけられた。


 さすが売れっ子プロデューサー。抱えてる番組はひとつじゃないだろうし、相談したいことが山ほどあるのかもしれない。


 ただでさえ貴重な時間を割いてもらったのだ、ひとりで帰れるからと僕は見送りを断った。



 「ごめんね、吉良くん。下の受付で名札の返却ができるから」

 「とんでもないです。今日はありがとうございました」



 ぺこりとお辞儀をした後、スタジオを出てエレベーターホールまでの廊下を歩きながら考える。


 芸能界でデビュー。

 それは、神さまの住む世界に足を踏み入れるということ。


 ……駄目だ。僕には向いていない。

 そう思うのに、律と一緒に歌うチャンスがあるかもしれないなんて、淡い期待を抱いてしまう。


 これは叶えることのできない夢だから。最初から諦めている夢だからいいんだ。


 唇を噛み締めて次々に湧いてくる邪念を払っていれば、タイミング良くエレベーターが到着した。

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