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数人先客がいるけれど、僕ひとりなら乗れるだろう。そう判断して中にいる人の確認もせず、すみませんと俯いてエレベーターに乗り込んだ。
それが間違いだったなんて知らず、僕は呑気に階の書かれた数字を見上げていた。
程なくして、エレベーターが一階に到着する。開ボタンを押しながら、僕は他の人が先に降りていくのを見送っていた。
あとひとりいるけど、降りないのかな。
一向に降りる気配のないそのひとに確認しようと顔を上げた瞬間、僕の顔からさぁっと血の気が失せる。
「……ッ!」
「待って」
まさか同じエレベーターに乗っていたなんて。そんなことが起こり得るなんて、思ってもいなかったから油断した。
だけど、ここはテレビ局。言わば、彼のテリトリー。僕の存在の方が異分子だ。
何も言わずに慌てて立ち去ろうとしたけれど、手を掴まれてしまえばもう逃げられない。
一番会いたくて、二度と会いたくなかった律だったから……。
一階でエレベーターを待っているひとが誰もいなくてよかった。いかにも訳ありですといった姿の律を、他人の目に晒すわけにはいかない。
「紡と話がしたいんだ」
「……わかりました」
いつまでも開ボタンを押したままではいられない。僕の勝手で働いているひとたちに迷惑をかけられないから。
渋々了承すれば、律はほっと胸を撫で下ろした。
こっち、と引っ張られるままに連れてこられたのは、非常階段。最上階まで続くそこは少し肌寒くて、音が反響しやすい。だけど、人目を避けたい僕たちにぴったりの場所だった。
「…………」
「…………」
何を話せばいいのか、どうすればいいのか分からなくて下を向いてしまう。何万回何億回と見た律の顔を直視することなんて僕にはできない。
「……ごめんね。ずっと謝りたかったんだ」
沈黙を破ったのは、律だった。
落ち着いた声で話しかけられるだけで、心臓が早鐘を打つ。
「紡にもう会えなくなるぐらいなら、いっそ俺のことを忘れられないようにすればいいって、すごく自分勝手で最低だった」
「…………」
「ファンだって言ってくれたのにごめん。気持ちを利用して、抵抗できないのに無理矢理連れ去ってごめん」
恐る恐る顔を上げれば、泣きそうな顔をした律と目が合った。心の底から後悔しているのが目から伝わってくる。
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