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みんなと同じようにインターンシップに参加して、説明会に行って、就職活動をするものだと思っていた。
大企業なんて高望みしないから、普通の会社で働ければいい。大学三年生になって自分の将来を考えたとき、それが一番だと思っていた。
それなのに、全く想像もしていなかった新しい選択肢が突然生まれた。
僕なんかが芸能界?
まさか、嘘でしょ。どうせ売れない。
平凡には似合わない、キラキラな眩しい世界。
だけど、どうしてだろう。
すぐに僕には無理だと断れないのは……。
黙り込んでいると、エレベーターが目的の階に到着する。田島さんの後に続いて降りて、肩を叩かれる。
「何もすぐにデビューしてほしいってわけじゃないからね。見学しながらまずはゆっくり考えてみるといいよ」
「……わかりました」
強ばった顔のまま、僕はスタジオに足を踏み入れた。
見慣れたセットが組まれたスタジオでは、大勢のスタッフがリハーサルを進めながら、本番前の準備に慌ただしく追われている。
(あ……)
セットを確認して、何の番組を収録するのか理解した瞬間、息を飲んだ。
ここは、はじまりの場所。
初めて律に出会って、恋をした場所に自分が立っている。
そう自覚した途端、名刺の件よりもそのことで頭がいっぱいになってしまう。足が震えるのを誤魔化すのに必死だ。
八年前、この場所で、スーパーアイドル・東雲律は生まれたんだ。
昨日のことのように思い出せる、あの衝撃。
熱いものが自然とこみ上げてきて思わず目を閉じれば、あの日の律が鮮明に瞼に浮かんでくる。
CDを発売する度、この番組に出演する律を見てきた。
言うなれば、ずっと見てきた夢の世界。
自分がそこに存在して、自分の目ですべてを見ていることが不思議でならない。
今誰がリハーサルをしているとかスタッフさんに注目されているとか、そんな周りのことなんて全く気にならない。僕はただ目に焼き付けるように、セットをじいっと観察していた。
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