2

 僕なんかがいいのだろうか。

 そう思いながらも、オーディション番組に出演したときの高揚感が蘇る。


 華やかでキラキラと眩しい世界。そこで生きていけるのは運と実力を兼ね備えた、まさに別世界の住人だけ。


 つくづく、僕に似合わない世界だと思う。


 だけど……、律に会うわけじゃないし。

 僕が出演するわけでもない。ただ、収録の様子を見るだけ。


 わざわざ忙しい間を縫って、こんなメッセージを送ってきてくれたんだ。何か他に理由があるのかもしれない。


 今、この瞬間はもう戻ってこない。

 平凡な僕はタイムマシーンなんて作れないし、未来予知の能力も持っていない。


 羅針盤に針がなくなってしまったのなら、自分で切り拓くしかない。未来を決めるのは、いつだって自分自身なのだから。



 『お久しぶりです。見学、してみたいです』



 ゆっくりと文字を打って、数度送信ボタンを押すのを躊躇った後、画面に表示されたのは送信完了の四文字。


 ふぅ……とため息を吐き出せば、隣から遠慮なく突き刺さる視線。



 「なに?」

 「んー、ちょっとは元気出たみたいでよかったなぁって」



 やっぱり気づかれていた。

 なんでもないようにそう言う幼馴染に、胸を打つ。

 

 腐れ縁っていうのもあるかもしれないけれど、いつだって傍で味方でいてくれた奏。


 感謝してもしきれないほどの恩がある。

 律のことは話せないけれど、それでも静かに見守ってくれた。



 「……ごめん」



 何でも話せる仲だって言ったのに、言えなくてごめん。こんな僕の面倒を見させてごめん。


 消え入りそうな声で謝れば、奏は大人びた表情で笑った。



 「何年一緒にいると思ってんだよ。もっと俺を頼ってくれてもいいぐらいなのに」



 心強くて、頼もしい。

 奏ほど優しいひとを僕は知らない。

 幼馴染で本当によかった。


 じーんと感動していれば、滅多に生徒の様子を気にしない教授がこちらを見る。



 「ほらそこ、ちゃんと話聞いて」

 「はーい、すみません」



 珍しい注意に奏が真顔で返事する。

 近くに座る女子の集団にくすくすと笑われて、僕は耳を赤くして俯いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る