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僕なんかがいいのだろうか。
そう思いながらも、オーディション番組に出演したときの高揚感が蘇る。
華やかでキラキラと眩しい世界。そこで生きていけるのは運と実力を兼ね備えた、まさに別世界の住人だけ。
つくづく、僕に似合わない世界だと思う。
だけど……、律に会うわけじゃないし。
僕が出演するわけでもない。ただ、収録の様子を見るだけ。
わざわざ忙しい間を縫って、こんなメッセージを送ってきてくれたんだ。何か他に理由があるのかもしれない。
今、この瞬間はもう戻ってこない。
平凡な僕はタイムマシーンなんて作れないし、未来予知の能力も持っていない。
羅針盤に針がなくなってしまったのなら、自分で切り拓くしかない。未来を決めるのは、いつだって自分自身なのだから。
『お久しぶりです。見学、してみたいです』
ゆっくりと文字を打って、数度送信ボタンを押すのを躊躇った後、画面に表示されたのは送信完了の四文字。
ふぅ……とため息を吐き出せば、隣から遠慮なく突き刺さる視線。
「なに?」
「んー、ちょっとは元気出たみたいでよかったなぁって」
やっぱり気づかれていた。
なんでもないようにそう言う幼馴染に、胸を打つ。
腐れ縁っていうのもあるかもしれないけれど、いつだって傍で味方でいてくれた奏。
感謝してもしきれないほどの恩がある。
律のことは話せないけれど、それでも静かに見守ってくれた。
「……ごめん」
何でも話せる仲だって言ったのに、言えなくてごめん。こんな僕の面倒を見させてごめん。
消え入りそうな声で謝れば、奏は大人びた表情で笑った。
「何年一緒にいると思ってんだよ。もっと俺を頼ってくれてもいいぐらいなのに」
心強くて、頼もしい。
奏ほど優しいひとを僕は知らない。
幼馴染で本当によかった。
じーんと感動していれば、滅多に生徒の様子を気にしない教授がこちらを見る。
「ほらそこ、ちゃんと話聞いて」
「はーい、すみません」
珍しい注意に奏が真顔で返事する。
近くに座る女子の集団にくすくすと笑われて、僕は耳を赤くして俯いた。
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