3

 僕の世界に突然舞い降りてきた天使は、いつの間にか神さまになっていた。



 「律は神さまになるはずだったのに、間違えて人として産まれてきたんだと思う。でもそんなところもおっちょこちょいでかわいくて好き」

 「お前よくそんなこと真顔で言えるよな」

 「……かなではそう思わないの?」

 「ハイハイ、そう思います」

 「そうだよね、律は僕の神さまだから」

 「は~」



 幼なじみの奏にそんなことを話しながら高校から帰ったときもあったっけ。頼むからストーカーにはならないでくれよ、なんて奏に思われているとはつゆ知らず、僕は日に日に律への愛を募らせていた。


 CDが発売されると決まったら、近所のCDショップに駆け込んですぐに予約した。パッケージのビニールをぴりぴりと丁寧に開ける瞬間が、たまらなく好きだ。


 歌詞カードを開いて、そこに載ってる律の姿にため息を吐いて。何度も何度でも繰り返し聴いて、プレイリストにどんどん曲が増えていくのが嬉しかった。



 コンサートのDVDは普段とはまた違う律が観れて興奮した。自己プロデュース力に長けている律は髪型や髪色をころころ変えるし、自分でメイクもしちゃうタイプ。自分が一番輝くために必要なものが何かをわかっている。

 そのままで十分美男なのに、カラコンを付けた姿は同じ日本人とは思えない程、美しかった。



 画面を通して見ているだけで好きが溢れて、心が張り裂けそうになるのに……。

 多分、生で見たら死んじゃうんだろうな。



 そういえば教室の隅でお弁当を食べながら、奏に質問されたこともあった。


 

 「そんなに好きならコンサートに行けばいいのに。今度ツアーがあるんだろ」

 「無理」

 「なんで」

 「神さまと同じ空気を吸ったら死ぬ」

 「……」



 真顔で即答した僕。

 奏は聞いた自分が悪かったと、死んだ目をしていた気がする。

 

 だって、そんなの愚問だ。

 律と同じ空間にいて、視界に入る距離にいるなんて、耐えられない。



 律は神さまだから。

 遠くから見ているだけでよかったんだ。

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