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 ――今からおよそ八年前。

 彼は彗星のごとく、突然僕の世界に現れた。


 毎週放送されている生放送の音楽番組。

 他に見るものがなくて、中学生の僕はただなんとなくでチャンネルをそれに合わせた。



 「さぁ、今夜も始まりましたミュージックスタジオ! 今夜のゲストを早速ご紹介しましょう」



 ベテラン歌手、当時流行っていたバンド、海外のアーティスト……。番組が始まると、名物司会者によって次々とアーティストが紹介されていく。


 

 「そして、最後は本日デビューされたこの方…! 東雲律さんです!」


 

 名だたる歌手の面々をカメラが抜いた後、画面を独占したのはまだ幼い面影の残る律だった。


 金髪のセミロング姿はまるで天使が空から舞い降りてきたようで、十七歳の高校生には到底見えなかった。


 

 (うわぁ……)


 彼との出会いはあまりにも衝撃で、僕は目を見開いてその美しい姿を瞳に焼き付けた。


 当時の律は成人していないのになんだか危険な妖艶さを醸し出していて、精巧な作りもののようだった。


 律が持っていたのは何も魅力的な容姿だけではない。ただの見てくれだけのアイドルだろうと高を括っていた人たちはその歌声に度肝を抜かれた。


 透き通るようなクリアな声は男性にしては少し高めで、キャラメルのように甘ったるい。

 歌唱力にも抜群の才能があった。


 テレビの中で歌う姿があまりにも美しくて、その声がとてつもなく綺麗で、どうしようもなく心惹かれてしまった。


 僕と同じように目を奪われて、その歌声の虜になったひとが何人いたことか。

 東雲律はたったの一夜にして、スーパーアイドルの称号を冠することになる。


 とにかく夢中だった。

 瞳をキラキラと輝かせて、瞬きをすることさえ忘れてしまう。紅潮した頬は、僕がどれだけ興奮しているかを物語っていた。


 たぶん、誰が見てもよくわかる。

 人が恋に落ちる瞬間だ。


 律に出会ったあの日から、僕はずっと叶わない恋をしている。

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2024年12月3日 18:03 毎日 18:03

エンデュミオンは眠らせない 新羽梅衣 @28_mei

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